開業しようと決めたとき、不安がありつつも楽しい気分でいっぱいだと思います。
しかし、そんな意気揚々とした船出に、大きく立ちふさがるのが数字です。
実は私も数字は大の苦手です。
だから、数字嫌いの人の気持ちはよくわかります。
そこでこのページでは、数字が苦手な方でもわかりやすいように、できるだけ簡単な表現を使って経営に必要な数字に着いて説明していきます。
数字をゲーム感覚で覚える裏技を紹介
会社を存続させるために最も重要な数字とは?
経営と数字は、切っても切れない関係にあります。
経営者にとって数字の話は必要不可欠なのです。
数字が苦手という方は多いので、数字のことは考えたくない気持ちもわかります。
ですが、非常に大切なので逃げずに向き合ってください。
何となくわかったら、あとは慣れです。ゲーム感覚でいいので、始めてみましょう。
まず、一つの数字を覚えてください。
会社が存続するために、絶対に必要な数字が「粗利益」です。
この数字がなくなると、会社は血液が循環しないのと同じ状態となり倒産してしまいます。
では、粗利益とはどんな利益を指すのでしょうか。
商売をシンプルに考えると、何かを仕入れ、それを売るということになります。
このとき粗利益は、「粗利益=売って儲けたお金-仕入れたお金」で表されます。
飲食店を例に考えて見ます。
飲食店は、食材や調味料を仕入れ、調理したものを販売しています。
この時の粗利益は、料理を販売して得た売上から、仕入れにかかったお金を差し引きした金額を指します。
粗利益がないと、経営は成り立ちません。
ですので、すべての会社の共通目的は利益を稼ぐことといえます。
これをよく表しているのが、京セラの創業者・稲盛和夫氏の「値決めは経営である」という言葉です。
利益がないと経営は成り立ちませんが、お客さまのことを第一に考えなくてはなりません。
利益を出してサービス提供の場を維持しつつ、お客さまに喜んでもらえる値段を考えなくてはなりません。
難しいですが、これこそ経営者の仕事といえるのです。
ゲームのスコアが高ければ経営はうまくいく
会社を回すためには、儲けた粗利益をどこに投資するか考えなくてはなりません。
でもその前に、お店を存続させるために必要なお金を差し引く必要があります。
店舗経営に必要なお金は、主に家賃と人件費です。
家賃や社員の人件費は、売上に関係なく毎月かかる費用なので固定費と呼ばれます。
人件費でも成果報酬費や繁忙期のアルバイトの給料などは、売上によりかかる費用が変動するので変動費と呼ばれます。
固定費と変動費が合わさって経費と呼びます。
経費は粗利益の中から捻出されます。
もっとお客さまに喜んでもらうため必要な設備に投資したり、お客さまにもっと知ってもらうために広告を出したり、お店を存続するためにはいろいろな経費を使う必要があります。
粗利益から経費を使ったあとに残る利益が、「営業利益」です。
この営業利益から、借金の返済や配当金を払い残るのが「経常利益」です。
この経常利益から税金を支払い残るものが「純利益」となります。
つまり経営とは、粗利益を稼ぎ、経費、配当、税金を支払い、最後に純利益を増やしていく数字のゲームといえるのです。
経営というと構えてしまうかもしれませんが、ゲームというと少しは簡単に感じませんか?
まずは、ゲームでスコアを稼ぐ感覚で経営の数字を覚えていってください。
繁盛店と平凡店の間にある決定的な違い
バランスシートで経営状態を診断する方法
起業前のあなたにとって、「貸借対照表」は馴染みのないもののひとつかと思います。
貸借対照表は通称・バランスシート(B/S=ビーエス)とも呼ばれます。
バランスシートは、会社のお金の使い道とその入り口を記す表です。
バランスシートはたとえて言うなら、レントゲン写真みたいなものです。
会社の健康状態ともいえる、経営状態を診断するのに必要な財務諸表の1つです。
資産を左側に、負債と純資産を右側に記載します。
開業時においては、左側が資金の使い道、右側が資金の調達方法となります。
当然ですが、左側と右側の金額はイコールとなります。
開業時はまず、右側に記載する必要な資金から考えていきます。
お店を開業するためには、材料の仕入れ、お店の施工費など様々な費用が必要です。
このような開業前にかかる費用のことを「開業費」と呼びます。
必要な開業費のうち、どこまで自分のお金を使い、いくらお金を借りているか考えなければならないのです。
経営者はレバレッジをかける思考を身につける
レバレッジという言葉をご存知でしょうか。
もともとは投資の言葉で、直訳すると「てこ」という意味です。
小さな力で大きなものを動かすときに使います。
経営の場合も同様で、少しの自己資金を投資して大きく儲けることを指します。
例えば初期投資で1500万円必要なビジネスを、自己投資500万円、融資1000万円で始めるとします。
この場合も、500万円にレバレッジを3倍かけてビジネスを行うという言い方になります。
借金には悪いイメージがありますが、レバレッジをかけて経営を行うのは普通のことです。
借金にはいい借金と悪い借金があります。
経営者は、レバレッジという仕組みを利用し、ビジネスで素早く大きな利益を稼ぐ思考回路を持つ必要があります。
バランスシートから進むべき方向が見える
開業資金として、借金を負債、自己資産を純資産とすると、左側の資産と同じ金額になります。
開業時のバランスシートはこの形でスタートします。
そして、将来目指すべき負債、純資産、資産を決め、そのバランスシートを目指し経営することになるのです。
バランスシート上で負債が減ると、その分「内部留保」という項目が生まれます。
これは、借金や税金を支払った後の利益のことです。
つまりあなたがやるべきことは、できるだけ内部留保を増やし、経営を安定させることなのです。
損益計算書に潜む7つのポイントを理解し繁盛店をつくる
損益計算書は粗利益を表す
ビジネスは自己資本で行うことで、安全性が保たれます。
しかし、大きくビジネスを展開していきたい時は、レバレッジを使い拡大することも必要です。
要は、アクセルとブレーキをバランスよく使い分ける必要があるということです。
利益をしっかり出して、借金を返済できれば問題はありません。
健康状態がいい会社というのは、粗利益がきちんと循環している会社のことです。
そこで次は、粗利益を表す「損益計算書」について考えていきます。
損益計算書で見るべき7つのポイント
損益計算書は、プロフィット&ロスの略でPLと表記されます。
この損益計算書の中で、覚えておいてもらいたい項目を以下に7つ挙げます。
まずはこの意味を覚えてください。
・売上
・原価
・粗利益
・固定費
・変動費
・税金
・純利益
純利益が残れば、バランスシートの純資産の欄に数字が増えていきます。
すると会社は健康な状態になり、現金がプールされます。
何かあったときすぐに対応できるお金が潤沢にあるかどうかも、会社の安全性という意味では大切な数値となります。
予算と実績、両方管理できる予実管理の使い方
数字の管理は大切ですが、非常にわかりにくいかと思います。
例えば何かを仕入れたとき、お金を月末にまとめて支払う場合は、数字管理上ではどうしたらいいのでしょう。
これにルールはありません。
一番いいやり方は、あなたの管理しやすいようにルールを作成すればいいのです。
つまりPLに書き加えるのは、仕入れたときでも、月末に支払うときでも、どちらでも構わないのです。
ややこしく考えなくて大丈夫です。
ちゃんと申告しないといけない場合は、税理士の先生にお願いすればいいのです。
優先しなければならないことは、経営を円滑に正しく進めていくことです。
そのためには、自分がわかりやすいルールで経営を行えばいいのです。
そして、損益計算書の中で最も大事なことは、毎月の予算をしっかりと立てておくことです。
売上目標はもちろん、経費についても毎月大体どれくらいかかるか計算します。
そしてその通りに経営を行っていくと、少しずつ経営センスや数字力が磨かれていくでしょう。
バランスシートと損益計算書について、何となく理解できたでしょうか。
そう固く考えず、何となくでいいので覚えておいて下さい。
あとは慣れです。とりあえず、やってみれば何とかなりますよ。
赤字と縁を切るための損益分岐点
ローリスク・ハイリターンを目指す唯一の方法
成功するチャンスはたくさん落ちていますが、なかなか景気が上向かない昨今、独立するのは難易度が高いかもしれません。
そんな中でも、これだけ押さえておけば、リスクは少なく成功しやすいという道があります。
それは、ともかくお金をかけずに出店するということです。
当たり前ですが、これが成功の秘訣です。
低予算開業、早期投資回収こそ昨今の開業の合言葉です。
開業資金を長期回収しようとするには、今の経済環境ではリスクが高すぎます。
ですので、できるだけ安く開業し、短期間で回収することが不況時の開業の常識です。
しかし開業には、ついついお金をかけてしまうものです。
「あれも、これも」とこだわっているうちに、気がつけば当初の2倍の予算になっている、なんてことも少なくありません。
「どうせ開業するなら、自分のこだわりを通したい」「思っていたよりもお金がかかりそうだけど、今さら止めるわけにいかない」と考えてしまうのです。
しかしどう考えても、高い投資をして10年で回収できる時代ではありません。
立ち上げてもすぐ潰れてしまっては、何の意味もないのです。
また、不動産などの契約時に後から条件が出てきて、金額が膨れ上がることもあります。
最初は、予算内でできると思っていたものが、内装や光熱費の問題など、実は予算内に収まらないことが発覚するのです。
そんなときは、今までの時間がどんなにもったいなくても、白紙撤回する心構えで交渉してください。
最後に責任を取るのは自分自身です。
妥協せずに、できるかぎり低予算開業を目指しましょう。
損益分岐点が把握できれば固定費を削減できる
利益がなかなか残らない店舗を経営されている方に、共通している問題があります。
それは、固定費が高いということです。
では、利益を残すには固定費をいくらにするべきなのでしょうか。
固定費をどれくらいに抑えるべきか考える上で、重要となるのが損益分岐点です。
損益分岐点とは、どこまで売上を上げれば利益が残るかを表したものです。
損益分岐点の位置では、利益がプラスマイナスゼロということになります。
自店の損益分岐点を見極め、固定費をどれくらいに抑えるべきかじっくり考えてください。
財務を考えるとあなたのお店の未来が分かる
財務と経理の違いは、開業までに知っておいて欲しい数字の知識の一つです。
一見同じようですが、この二つには明確な違いがあります。
まずは経理から説明していきます。
経営が始まると、毎日帳簿を付け、出て行くお金と入ってくるお金を計算します。
経営の結果は、経理にすべて表れます。
過去の経営の実績をすべて数字でチェックし、データとして蓄積します。
そして過去の数値を把握し、経営の指針としなければなりません。
経理は税金を納めて終わりではないのです。
経理は経営の通信簿みたいなもので、傾向と対策を練るためにあります。
次は、財務についてです。
財務という言葉にも色々意味があり、資産運用、ファイナンスとも言われます。
経営では資金だけでなく、人材、在庫などの経営資源をどこに投下して利益を得るか考え、実践することが財務です。
経営者にとって、経理が過去の数字管理であることに対し、財務は未来の数字管理を指します。
そして経営者が、最もおざなりにしてしまうのが財務です。
日々の業務だけでも忙しい経営者は、そのお店の1年先まで考える暇がないのです。
しかし、未来の計画を立てて経営をしないとお店の行く先が見えません。
お店を繁盛店に導くために、財務は非常に重要なのです。
繁盛店をつくるには粗利益をどこに回すかが重要
お客さまからいただく粗利益を次にどこに回していくか、経営者は常に考えなければなりません。
人を雇う、スタッフを教育する、店舗の内装を変える、広告を出す、借金を返す、などなど使い道はいくつも考えられます。
粗利益を投資する目的も、店を存続させるため、お客さまに喜んでもらうため、スタッフが働きやすくするため、社会貢献のためなど様々です。
これは経営者にとって、一番の課題でもあります。
お金は稼ぐことより使うことの方が難しい、という言葉があります。
この理由の一つに、お金の使い方を間違えるとお金を稼ぎ続けることができなくなるからです。
一瞬成功したとしても、それが継続しなければ意味がありません。
そして成功を継続させるには、得た利益をうまく回さないとならないのです。
会社員は、お金を貯めて増やすのが一般的です。
しかし経営者になると、お金を使わないとお金が回ってこないのです。
業界平均は自分で決める
では、何に、どれくらいの割合で投資していけばいいのでしょう。
これを考えるうえで、自分の知っている業界の平均値を参考にする人がいますが、これは間違いです。
業界の平均値という言葉が、業界の成長を遅くさせている要因なのです。
自分の業界ではなく異業界の事例をどんどんマネして、取り入れていくことが成功の秘訣です。
古い業界でも、既存の概念を壊すことが必要です。
例えば飲食店では、「人件費30%以下、原価33%以下」というのが業界平均でした。
ところが、最近では飲み放題の居酒屋が登場し流行しています。
ここでは原価の安いものを飲み放題、ドリンクをセルフサービスにする業態にすることによって、人件費20%以下、原価25%以下に抑えています。
成功者は、自分で新しい常識を作ってきました。
「平均値は自分で見つける」くらいのつもりでやっていけばいいのです。
ちなみに、財務には「社長の勉強代」と「スタッフの教育費」を必ず入れて欲しいと思います。
この目に見えない投資をケチると、目に見えないリスクを負うことになります。
経営者はもちろん、スタッフも意識を変え続け自己革新していくことが、繁盛店舗への近道なのです。
会計基準にはない、繁盛店に必要な数字
ここからは、未来の数値をつくる財務の観点から、具体的な数字の扱い方を説明していきます。
まず、経営理念を思い出してください。
あなたの理念を達成するために、いくらの売上と利益が必要でしょうか。
これがイメージできないと危険です。
なぜなら人間は、イメージできない目的を達成することはできないからです。
売上と利益がイメージできたら、それに対してお店の状況を分析してみて下さい。
お店の状況を分析するうえで、注目すべきは固定客です。
「前月の固定客数<当月の固定客数」これこそが、繁盛店舗になるための公式です。
毎月固定客を増やすことが、繁盛店舗になるために重要なポイントとなります。
固定客を増やすためには、新規客を増やすのか、失客数を減らすのか、自店に必要な施策をしっかりと認識してください。
次に確認するのは、「客単価」です。
客単価とは、1人のお客さまが1回の来店で使う金額のことです。
年間の売上を客数で割ると、客単価は計算できます。
現状の客単価がわかっているのなら、目標売上をその数値で割ることで、目標となる客数がわかります。
これらの数値は独自に管理しなければならない数字なので、忘れないようにしておいて下さい。
経営センスを磨く、逆算経営3つのコツ
ここでは、具体的な計画の立て方のコツを3つお伝えしたいと思います。
一つ目は、目標から逆算して数値目標を決定するということです。
目標から逆算することによって、期間内にどうすれば達成できるか明確になります。
そのため、毎月の目標も立てやすくなるのです。
これを現状から計算してしまうと、目標まで届かないとき期間を延長してしまい、なかなか目標が達成できなくなります。
二つ目は、季節指数を考慮するということです。
どのような業界も、月により売上が変動します。
例えば飲食店では、歓送迎会の季節、忘新年会の季節は売上が高くなります。
このような季節による変動が季節指数です。
季節指数は「その月の売上÷月平均の売上」で割り出すことができます。
例えば、月平均売上が200万円で12月の売上が240万円なら、「240万÷200万=1.2」これが12月の季節指数です。
この季節指数を、月別の目標売上に掛けることで、よりリアルな数値目標になります。
三つ目は、人件費、経費などの出ていくお金に関しても、しっかりと予算を立てることです。
経費にも目標が必要です。
目標売上を達成するために、どのくらいのスタッフの人数、人件費、原価、広告費をかけるべきか、あらかじめ予算を立てることにより、意識的に無駄な経費を削減することができます。
予算を基準にして、少し原価の節約を考えなければならないとか、もう少し集客のための施策を打ってみてもいいなど、必要な経費を必要なだけかけることができるのです。
正しい経営を行って繁盛店をつくるために
経営者の中には、何でも雑費扱いにしている方が少なくありません。
細かい金額ですが、不必要な雑費、使途不明金をなくすことで、健全な財務管理が可能となります。
月ごとの目標を日々の目標に落とし込み、計画をスタッフと共有してください。
そして、数値を管理しながら軌道修正を行えば、必ず繁盛店舗にすることができます。
大切なことは、お店の未来のために今どうあるべきか、常に考え行動することです。
そのためにも、様々な数字の扱いを覚えください。数字を味方にすれば、経営で怖いことはなくなるでしょう。