創業融資を正しく理解し、起業時の資金調達を円滑にする方法

創業融資を獲得する

お金もコネも知識もない、あるのはアイデアと情熱だけという小さな起業家にとって、起業直後の最大の問題は資金不足でしょう。

「開業準備資金」「つなぎの資金」だけでなく、「赤字補てん資金」や「生活資金」まで確保しておくことが、起業して最初の1年間を乗り切るポイントです。

ここでは、「自分で稼ぐ」「借りる」「助成金をもらう」「補助金をもらう」など、7種類の起業時の資金調達方法について基本的な考え方を説明します。

 

目次

開業・起業したいのに踏み切れないのはなぜか

そもそも開業・起業とは?

開業・起業するということは、誰にも雇われず、1人の力でゼロからビジネスをつくりあげることです。

何を、いくらで、誰に、どうやって、どこで売るか、何をすべきで何をすべきではないか、などなどすべて自分一人で決断しなくてはなりません。

その責任を取るのも自分自身であり、利益を得るのも自分自身です。

 

起業とは、たった1人で未知のゴールを目指すようなものです。

ゴールに到着するまでの道は、自分で探さなければなりません。

しかも、目指すゴールが本当に存在するかは分からないのです。

 

店舗経営の3大資源とは

店舗経営の3大資源といえば、「ヒト」「モノ」「カネ」の3つです。

この3つの要素がそろわなければ、事業を軌道に乗せ利益をあげることができません。

では起業に踏み切るまでに、どれだけこれらを揃えるべきなのでしょう。

 

すべての経営資源が、準備万端整うまで、まつべきでしょうか?

それとも「ヒト」「モノ」「カネ」のうち、1つでもそろえばとにかく行動すべきなのでしょうか?

帝国データバンクのデータによると、起業家の多くは事業化できるアイデアを思いついたときや、以前の勤務先でやりがいを感じないと思ったとき、起業について検討をはじます。

そして、資金面のメドがついたときに実際に起業しています。

 

ところが多くの人が、起業してみると資金調達は大した問題ではなかったことに気づきます。

中小企業庁の統計によると、豊富な資金や素敵なアイデアは自分の強みにならなかったと感じています。

強みは他にあったと、45%の人が答えているのです。

 

何があなたの開業・起業熱に火をつけるのか?

アップルやアマゾンも、起業熱を突き動かしたものは同じです。

アップルの創始者スティーブ・ジョブズと友人のウォズニアックが、パソコンを作って売ろうと決めたとき、2人にはほとんど資金がありませんでした。

当時ウォズニアックは持っていたHP65という電卓を、ジョブズはおんぼろのフォルクスワーゲンを売って、1,300ドルの開業資金を調達しました。

そして、自分たちのコンピューター会社を立ち上げたのです。このときウォズニアックは、ヒューレット・パッカード社という大企業に勤めていました。

ジョブズはウォズニアックに、「お金は損するかもしれないけど、自分の会社が持てるよ。一生に1度のチャンスだ」と言ってビジネスに誘ったのです。

 

アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは、「インターネットで、あらゆる商品を販売する」というアイデアに夢中になりました。

当時のベゾスは、DE・ショーというヘッジファンドの会社に勤めるサラリーマンでした。

しかし、「何でも売っているお店」という熱に浮かされた31歳のジェフ・ベゾスは、快適で給料のいいウォールストリートの仕事をあっさりと捨て、インターネットの可能性にかけて起業するのです。

DEショーの社長は、辞職を申し出るベゾスに対して、将来は自分たちが競合することになると脅します。

突然会社を辞めて事業をはじめることにしたと告げる息子に父親は驚愕し、母親は、「新しい会社の仕事は、夜か週末にすればいいのでは?」と、現実的な妥協案を提案します。

しかし、ベゾスは踏みとどまりませんでした。その一方で、合流したいと慕ってきた後輩には「僕の事業は冒険だよ」と言って退職を思いとどまらせています。

 

2人を突き動かしていたもの、それは熱に浮かされたような「情熱」です。

どんなに緻密に準備をしても、100%成功するビジネスなんてありません。

起業して3年後には、5割の会社が撤退を余議なくされるという厳しい現実もあります。

 

では、撤退する会社と成功する会社の運命は、何で決まるのでしょうか?

それは、事業にかけるあなたの「情熱」です。

あなたがはじめるビジネスは、あなたの情熱に比例して大きく成長していきます。

 

ジョブズは、大企業だけのものだった大型コンピューターの世界を、子どもでも使える「パソコン」の世界に変えるという熱に浮かされていました。

当時は普通の人がコンピューターを誰でも所有するなんて、誰も考えない時代です。

ジェフ・ベゾスは、誰もインターネットという新しい大陸の存在に気がついていない時代、「何でもそろう豊富な品ぞろえのスーパーストア」の可能性に夢中になりました。

世界に向けてあらゆる商品を販売すれば、顧客もその品ぞろえの豊富さに満足してくれると信じていたのです。

 

あなたが起業に踏み切れない真の理由を見つける

「カネ」は、事業を成功させる最大の要因ではありません。

事業を継続していけるかどうか、事業を大きく発展させていけるかどうかは、あなたの情熱にかかっているといっても過言ではありません。

事業推進のために必要な資金が不足しているなら、第三者から借りればすむ話です。

借りる相手は、銀行を含めいくらでも考えられます。

 

もし、あなたのビジネスプランが、金融機関や両親、兄弟、友人の誰からも応援してもらえないなら、その理由を考えなくてはなりません。

あなたが起業に踏み切れない真の理由は、「カネ」以外の部分に必ず存在しているはずです。

次ではその答えについて考えていきましょう。

 

お金という恐怖に怯えないためにやるべきこと

起業するには、どのくらいの資金が必要か?

これから起業しようと考えているあなたも、他の起業家が開業準備にどのくらいの資金を必要としているか興味があるのではではないでしょうか。

日本政策金融公庫が調べたところによると、開業費用で最も多いのは600万~800万円、次いで多いのが400万~600万円となっています。

起業には相当な金額の資金が必要だと考えるべきです。

 

底なしの恐怖に怯えるのも起業

SoupStockTokyoを立ち上げた遠山正道氏は、親から相続した株を売却し、自己資金2,000万円を準備して会社をスタートさせました。

三菱商事の社内ベンチャーという位置づけでスタートしたので、資本金は15,000万円、遠山氏のシェアは13%でした。

13%のシェアでは、経営者として会社を思いどおりに運営していくために十分とはいえません。

13%だと株主の3分の2の意見により、社長を解任させられてしまう可能性もあるのです。

しかし会社員だった遠山氏には、2,000万円が用意できる精一杯の金額でした。

 

SoupStockTokyoの経営は、最初は上手くいきませんでした。

赤坂にドミナント出店した、3つの店舗の売上が伸びないのです。

ちなみにドミナント出店とは、競争優位に立つために、ある特定の地域内に集中して出店する戦略です。

メニューを換える、看板を出す、チラシを配る、考えられることを全て試しましたが、さっぱり効果は上がりません。

株主である三菱商事からは突き上げられ、「絶対に何とかする」と言いはしますが、胃の痛む毎日だったそうです。

 

遠山氏が用意した2,000万円は、あっという間に底をつきます。

月によっては、300万円もの赤字を計上してしまいます。

遠山氏はこの時、お金で恐怖を感じたそうです。「この先どうなってしまうのだろうと、心臓がペタリと張りつくような感覚でした」と著書で語っています。

 

会社員が何億円のビジネスを動かそうと、それは責任の所在がはっきりしない他人のお金です。

しかし起業した途端、100万円だろうと10万円だろうと資金の責任はあなたにかかってくるのです。

今持っている資産を失うことよりも、マイナスが際限なく増え続けていくことの方がよっぽど恐怖なのです。

 

新規開業の成功の鍵はいかに多くの人を巻き込めるか?

株式会社の原則は、所有と経営の分離です。

どれだけ小さな会社でも、株主である個人が会社の借金を肩代わりする必要はありません。役員も同様です。

しかし個人の起業の場合は、株主も役員もあなた1人というケースがほとんどでしょう。

事業を存続させるために、個人で所有している資産を売却したり、家族や友人から個人的な借金をしたりして、会社の支払いに充てるのが現実です。

そのため、少しでも手元資金を蓄えてから起業したいと考えるのは自然なことでしょう。

 

しかしビジネスの成功は、いかに多くの資金を用意できるかとは関係ありません。

ビジネスの成功は、いかに多くの人をあなたのビジネスに巻き込めるかにかかっています。

もし、資金がないために起業できないと考えているのなら、まずは自分の事業計画が魅力的かどうかを振り返ってみる必要があるでしょう。

これらの要素を良く考えてみると、起業に踏み切れない理由が資金以外のところにあると気づくかもしれません。

 

支持されるビジネスモデル

アマゾンは、創業から7年間1度も黒字を出すことができませんでした。それどころか、莫大な設備投資を行ったため一時は株価が低迷し、倒産の危機を迎えています。

それでも株主たちは、ジェフ・ベゾスが描いた「何でも売っているお店」という、壮大なネットビジネスの成功を信じて支援を続けたのです。

 

第三者に支援を受けるためには、次の3つがポイントとなります。

・事業計画は支援者に夢を見させることができるほど魅力的

・起業を必ず成功させるという熱意がある

・起業が成功するためのロジックがしっかりしている

 

二流の条件を乗り越えるノウ八ウ

カレーハウスCoCo壱番屋の創業者、宗次徳二氏は著書の中で、「ヒト」「モノ」「カネ」のいずれにも恵まれなかったことが、成功した秘訣だと語っています。

何もなかったからこそ、必死に努力し、ない知恵をしぼったそうです。

CoCo壱番屋の1号店は名古屋市郊外、裏と隣が水田で面積12坪、客席数わずか20席という最悪の立地でオープンしました。

お金がなかったため、仕方なく悪い立地で開業しました。しかしだからこそ、二流立地におけるカレー専門店の繁盛ノウハウを獲得できたのです。

世の中に一流立地はほとんどありません。

さらに、そこで開業するには莫大な資金が必要です。しかし、二流立地ならいくらでも安く手に入ります。

二流立地で繁盛するノウハウを身につけたからこそ、CoCo壱番屋はスムーズに多店舗展開することができたのです。

 

 

小さな起業の資金調達法

自己資金だけで起業するのをあきらめる

日本では、毎年20万人から30万人もの起業家が誕生しています。

その一方で、いつかは起業したいと考えている、起業予備軍は100万人以上存在しています。

もし、起業予備軍のうち半分の人が、起業に踏み切ることができるとしたら、日本経済におよぼすインパクトは計り知れないものになるでしょう。

 

これだけ多くの人が、独立開業したいという思いを抱えながら行動に移せないでいます。

その理由のトップは、自己資金の不足です。起業家予備軍の80%は会社員です。

会社員が給料から、多額の自己資金を貯めることは容易ではないのです。

団塊の世代なら、退職金の割り増し制度を利用して資金を確保することもできるかもしれません。

 

しかし20代や30代の若い会社員の場合、いつになれば自己資金が確保できるか分かりません。

そうこうしているうちに、せっかく思いついたアイデアは廃れてしまうのです。

この問題を解決するには、足りない資金を借りるしかありません。

借りる相手は、両親や金融機関が一般的でしょう。最近では、起業を応援する制度も充実しています。

金融機関から創業融資を受けるのは、そんなに難しいことではありません。

 

小さな投資からは小さな回収しか生まれない

当然ですが、借りた資金は返済しなければなりません。

投資した以上の成果があがらなければ、借金地獄・自己破産という未来に不安を感じるかもしれません。

 

しかし、ビジネスとは、投資した資金をいかに効率的に回収するかという経済活動なのです。

投資をしなければ、回収することはできません。さらに、小さな投資からは小さな回収しか生まれません。

大きな回収を目指すなら投資も大きくなり、その分だけリスクも大きくなります。

つまり起業とは、リスクとリターンのシーソーゲームのようなものなのです。

 

資金を借りてでも自らのビジネスに投資するというリスクを冒せない人は、そもそも起業家には向いていないのかもしれません。

若き日のスティーブ・ジョブズが「アップル1」をつくって売ろうと決めたとき、彼には部品を仕入れる元手さえありませんでした。

そこでジョブズは、売上先から回収したお金で、仕入代金を支払うという離れ業をやってのけたのです。

 

ジョブズは「アップルl」の基板を1500ドル、合計50台の受注に成功します。

しかし、これを生産するには、15,000ドルの部品代が必要でした。ジョブズは友人とその父親から5,000ドルを借りたものの、まだ1万ドル足りません。

そこで、地元ロスアルトスの銀行に融資を申し込みますが、みすぼらしい身なりの若者に銀行がお金を貸してくれるわけがありません。

起業直後のジョブズも、「創業資金の不足」という課題に直面したのです。

 

しかし、ここで諦めては一流の起業家とはいえません。

ジョブズは様々な業者に掛け合い、掛け取引に応じてくれる仕入先を見つけます。

仕入代金の支払いは30日後です。無事部品を手に入れたジョブズは、30日後には製品を完成させ納品にこぎつけます。

そして製品の売上代金を現金で回収し、期日までに仕入れ代金の支払いを果たしたのです。

「回収はできるだけ早く、支払いはできるだけ遅く」これは資金繰りの原則です。

借りるだけが資金調達の方法ではありません。ジョブズはマーケティングだけでなく、財務に関しても、天才的な才能を発揮したのです。

 

資金調達方法は7 

起業予備軍といわれる人たちは、足りない資金をどこから調達すればよいのでしょうか?

一般的に資金を確保する方法は、次の7つが考えられます。

 

・自分の貯金や資産
・配偶者や両親、その他の親族
・友人、取引先、以前努めていた会社など第三者
・銀行や公庫などの金融機関
・国や地方公共団体
・ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家
・自分の事業

 

一般的には、この7つの方法をいくつか組みあわせます。

先ほどのスティーブ・ジョブズも、「自分たちの貯金」「人から借りる」「事業の儲けから捻出する」という3つの方法を駆使し、起業時の資金難を乗り切っています。

 

起業家にとって、資金集めは容易ではない

中小企業庁の統計を見ると、4割の起業家が、配偶者や親族、友人、知人などからお金を借りて、資金を調達しています。

そこに、以前の勤務先など非金融機関からの資金調達の割合を加えると8割にも上ります。

 

ジェフ・ベゾスの創業資金は、現金1万ドルでした。翌年には両親に、10万ドルの出資を依頼しますが、このとき出資金が戻らない可能性は70%だと説明しています。

「どういうリスクがあるのか、ちゃんと知っておいてほしい。事業に失敗しても実家には帰りたいから」というのがその理由です。

アマゾンの成功の可能性と失敗のリスクを最もわかっていたのが、ジェフ・ベゾス本人だったのです。

 

信用も実績もない起業家が、資金を集めるのは容易ではありません。

アマゾン創業者メンバーの1人カファンが入社時に5,000ドルを出資したのは、それが採用の最低条件だったからです。

カファンは「もっと出すことはできたけど、あの当時、とてもそれ以上に出資する気にはなれなかった」と語っています。

今ではGoogleと肩を並べる世界企業に成長したアマゾンでさえ、スタート当初の資金集めは大変だったのです。

 

政府系金融機関は積極的に融資してくれる

アマゾンは公開から1カ月で、全米50州と世界45カ国をカバーできるほどの実績を作りました。

しかし、まだ資金は不足しています。そこで、資金を調達するため投資家を集めてプレゼンをしますが、このときも失敗の確率は70%だと説明しています。

それから2年後、ベゾスの構想をただのはったりと思った人と、インターネットの可能性を信じた投資家との運命は大きく分かれることになります。

 

なぜならこの資金調達から2年後、アマゾンはIPO4050倍の株価をつけることになるからです。

残念ながら日本には、投資家がスタートアップの会社に出資をするという文化はありません。

そのため、ベゾスのような資金調達は難しいでしょう。代わりという訳ではないですが、日本では国をあげて起業家を応援する政策が取られています。

「創業融資」や「創業補助金」、技術やノウハウに新規性がある人向けの「資本制ローン」という、スタートアップ向けの資金調達制度が充実しているのです。

しっかりした事業計画があれば、日本政策金融公庫などの政府系金融機関は積極的に融資をしてくれます。

 

サラリーマンがお金を借りる場面は、住宅や自動車をローンで購入する時ぐらいかもしれません。

そのため、金融機関の融資窓口を訪問するのを躊躇してしまう人もいるでしょう。しかし勇気を持って、最寄りの日本政策金融公庫や、金融機関の窓口を訪問してみましよう。

融資の担当者は事業計画のプロでもあります。そこで厳しい対応をされたということは、あなたの事業計画がまだ甘いということです。

その場合でも、融資を可能にするために事業計画のアドバイスをくれることもあります。積極的にチャレンジしてみましょう。

 

「日本のベンチャーの草分け」と尊敬される堀場製作所の創始者である堀場雅夫氏も、最初から経営のプロだったわけではありません。

堀場氏は何か事業のアイデアが浮かぶと、すぐに銀行に資金調達の相談に行きました。

すると厳しいことをいわれます。最初は頭にくるが、銀行は最高の経営コンサルタントだと考え再考したそうです。

堀場氏は、成功の秘訣は無借金経営をしないことだと述べています。

 

開業資金の計算方法

資金がいつ、いくら不足するかシミュレーションする

会社は、仕入先や従業員への支払いができなくなったときに倒産します。

少なくとも起業してから1年間に必要な資金や、どの程度の資金がいつ不足するかシミュレーションをしておきましよう。

 

当然ですが、実際に事業をはじめてみると、シミュレーション通りにならないことが普通です。

だからこそ最悪の事態を想定して、いつまでなら持ちこたえられるか、少ない資金をどこに集中的に投入すればいいか、あらかじめ考えて準備をしておかなくてはなりません。

まずは、「必要となる開業資金」「自己資金でまかなえない金額」「その不足資金を調達する方法」を検討することからはじめてみましょう。

 

起業に必要な資金を4つに分けて考える

では必要となる開業資金は、どのように算出すればいいのでしょうか?

起業に必要な資金を計算するときは、使い道に応じて、「開業準備資金」「つなぎの資金」「赤字補てん資金」「自分の生活資金」の4つに区分して考えると分かりやすいです。

 

初めの開業準備資金はさらに3つに分けて考える

開業準備資金のうち「設備資金」については、次の3つの資金に分けて考えると創業計画が立てやすくなります。

 

①取得金額が10万円以上の物や、2年以上使用し売上に貢献する物を購入するための資金

製造業の場合なら製造用の機械、雑貨屋や薬局だと商品を並べるラックやレジを購入する資金が必要になります。これらを購入するためには多額の資金が必要ですが、1度手に入れてしまえば長期間収益に貢献してくれます。

このような資産は創業計画書を作成する際、購入した年度に1度に費用として計上しません。その資産が収益に貢献してくれる期間の間、少しずつ費用化していくのが特徴です。

 

②時が経っても価値が減少しない物を購入するための資金

たとえば土地やゴルフ会員権などは、景気や社会情勢に応じて価値が変動しますが、古くなったからといって価値がゼロになることはありません。また店舗を借りるための保証金など、契約が終了したときに返金されるような資産もこのタイプに該当します。

これらの資産は収益には貢献するものの、創業計画書を作成する際には費用とカウントしません。

 

③開業の際1度に揃える必要があるが、その後は使った分だけ補充していく物を購入するための資金

コンビニエンスストアや雑貨屋、薬局などをオープンする場合、初めに大量の商品を揃えるための資金が必要です。他にも豊富な漫画本をそろえてからでないと、インターネットカフェをオープンすることはできません。特に飲食店をオープンするためには、初期投資に多額の費用がかかります。

 

つなぎの資金は余裕を持って計算する

次に必要となる資金は、いわゆるつなぎの資金です。

つなぎの資金とは、仕入代金や家賃、交通費、通信費など、日常の営業活動に必要な資金のことを指します。

 

飲食店の場合を考えると、食材や消耗品はある程度まとめ買いをするのが普通です。

なぜなら、大量に購入したほうが安い単価で購入できるからです。

しかし、全ての食材をすぐに使うわけではありません。

大量に購入した全ての食材をお客さまに提供し、売上金として回収するまでにはタイムラグが発生します。

 

つまり、まとめ買いした食材や消耗品は、いったん資産として社内に備蓄されることになります。

このように、社内に蓄えられる資産が「在庫」です。

 

一方で、仕入代金はすぐに支払う必要があります。

ということは、全ての食材を提供してお客さまが料理の代金を払ってくれるまでの間、在庫を揃えるための資金を前もって用意しなければならないということです。

仕入れた商品を販売し代金を回収するまでの期間が長くなればなるほど、その間の仕入れのため多くの資金を準備する必要があります。

 

事業者間の取引では、商品の引き渡しと同時に現金で支払うケースは少ないです。

1か月分の代金をまとめた請求書を送り、それを受取った後に支払うのが通常となります。

しかも、支払いのタイミングも相手次第です。事業者間の取引では、商品が売れたとしても実際に現金を回収するのは13カ月先になることが通常なのです。

一方、売上の入金が先だからといって、経費の支払いは待ってくれません。

 

飲食店など事業者間取引でない場合も、現金で支払ってくれるお客さまだけとはかぎりません。

カード払いの場合、カード会社がお客さまの口座から代金を回収して、お店に振り込んでくれるまでの間、12カ月かかります。

このような理由から、商品を売り上げてから入金されるまでの期間に発生する経費を支払う、つなぎの資金が必要になるというわけです。

 

赤字補てん資金は悲観的に予測する

もうひとつ忘れずに準備しておかなければならないのが、創業時の赤字を補てんするための資金です。

起業して1年目から十分な収益が見込めるとは限りません。

むしろ初年度は認知度も低いため、赤字になる可能性のほうが高いといっても過言ではないでしょう。

 

そしてここからが重要なのですが、金融機関は一般的には赤字補てん資金は貸してはくれません。

つまり起業する際は、創業赤字が続いても持ちこたえるための資金を、あらかじめ計画に入れておく必要があるということです。

 

世の中の50%以上の会社が、創業して3年以内に倒産してしまうのが現実です。

その原因の多くは、創業時の赤字を補てんする余裕資金を持っていないことによるものなのです。

 

どんなに級密な事業戦略を練っても、ビジネスは思いどおりにいきません。

会社を左右する売上金額の決定権を持っているのは、あなたではなくお客さまです。

そこで、最悪の事態に備えるために、創業計画を立てる段階で楽観的な予測も想定しておくとよいでしょう。

期待どおりに売上があがらない場合でも、投入できる資金を確保しておくことは、リスク管理の面から絶対に必要です。

 

自分の生活資金を1年分確保しておく

サラリーマンと起業家では、発生する報酬に違いがあります。

サラリーマンの場合、自分が提供した時間に対して報酬を貰います。

これに対し、起業家は結果に対して報酬を貰います。つまり、結果が出ないとお金は1円も入ってきません。

 

会社を辞めて独立開業するということは、自ら進んで失業という選択をするようなものともいえます。

事業が上手くいかないと、生活費にも事欠くようになります。

そうなれば、プレッシャーから長期的な戦略を取ることができなくなります。

目先の利益を得るため採算の悪い相手と取引したり、リスクの高い取引に手を出したりしてしまうのです。

こうなると、ただでさえ低い起業の成功確率がますます低くなってしまいます。

 

予定どおりに業績があがらなくても、生活の基盤が安定していれば必要以上の不安は感じないでしょう。

少なくとも1年間の生活費を確保しておけば、気持ちに余裕が生まれ冷静な判断を下すことができます。

事業を成功に導く為にも、あらかじめ自分と家族の生活資金を確保しておくことが必要なのです。

 

 

融資と担保について

担保について知識がないと不利な契約になる

担保がなくても、金融機関から融資を受けることはできます。

しかし、設備資金などで多額の融資を申し込む場合には、「担保なしでは貸せません」と言われることがよくあります。

また、会社の業績が赤字続きだったり債務超過だったりすると、返済能力に問題があると判断され担保を要求される場合もあります。

 

これは、事業に失敗して返済できなくなった場合でも、担保権を行使すれば貸したお金の一部を取り戻せるからです。

融資とは、金融機関とあなたの「契約事」を意味します。お互いが、自分に有利な条件で契約しようと交渉するのは当然のことなのです。

そのため、金融機関の言いなりになってはいけません。不利な契約を結ばないためにも、担保について基本的な知識を身につけておきましょう。

 

担保には、次の2つの種類があります。

・抵当権や質権などの物的担保

・保証人や連帯保証人などの人的担保

 

ここではまず、物的担保について説明します。

 

不動産などに設定する「物的担保」の基礎知識

物的担保とは、借金が返せない場合に備えて、不動産など特定の財産に抵当権を設定することを指します。

物的担保を設定する場合、借り手は金融機関と「抵当権設定契約」を結びます。

この場合、担保の対象となった不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)にもその旨が記載されます。

 

抵当権を設定しても、借り手は今までどおり物件を使い続けることができます。

しかし、借り手側が債務不履行の状態になったら、金融機関はその担保物件を処分して優先的に貸金の回収を図ることができるのです。

これを抵当権の実行といいます。

 

例えば、抵当権設定契約を結んで、A銀行から1,000万円を借りたまま、債務不履行の状態になったとします。

この場合、担保物件を処分されてしまいます。この時の売却金額を1,200万円とし、A銀行以外にB銀行からも1,000万円の借金があったとします。

この場合、売却代金の1,200万円は優先的に抵当権を設定しているA銀行の返済に充てられ、B銀行には残った200万円が分配の原資になるということになります。

 

普通抵当と根抵当の基礎知識

抵当権には「普通抵当」と「根抵当」の2種類があります。普通抵当は、特定の債権を担保しています。

そのため、債権と抵当権が11の関係にあります。当然、対象となる債権を全額完済した時点で抵当権も消滅します。

 

これに対して、根抵当は特定の債権を担保するものではありません。

将来借りる可能性のある分も含め、不特定の貸金の担保として設定します。

あらかじめ借り入れ可能な極度額を設定しておくというものです。

 

抵当権の基礎知識

抵当権の設定は、借り手が所有している不動産を設定するのが原則です。

しかし、本人以外の第三者が所有する不動産でも、所有者が同意すれば担保とすることができます。

特に根抵当の場合は、貸し手と不動産の所有者の間で契約が交わされるため、借り手と不動産の所有者が同一である必要はありません。

 

金融機関が物的担保を要求するのは、貸し手側が保守的すぎるという問題もあります。

しかし、財務状態が悪い場合や、事業計画に将来性が見込めない場合など、借り手側に問題がある場合も多いのです。

特に、起業時は判断材料となる過去の実績はありません。

そのため、担保を求められるということは、事業計画自体が実現可能か問われているということになります。

 

融資と保証人について

保証人制度の基礎知識

先ほど担保には2種類あると解説しましたが、人的担保に当たるのが保証人制度です。

保証人とは、債務者が融資の返済ができなくなったとき、債務者に代わって返済する契約を金融機関と結ぶ人のことです。

この契約を「保証契約」といいます。金融機関からすれば、債務者が事業に失敗して返済が滞ったとしても、保証人から返済を受ける事ができます。

貸し倒れのリスクを軽減することができるありがたい制度というわけです。

 

債務者と保証人の間で交わされる契約は「保証委託契約」です。

金融機関と結ぶ保証契約とは別物になります。

そのため、債務者に万が一のことがあれば、金融機関は保証契約に基づいて、保証人に借金返済を請求することができるのです。

保証人を頼むとなると、どうしても両親や兄弟、友人など、親しい間柄に限られてきます。

 

このような、債務者の人間関係を利用する保証人制度は多くの問題をはらんでいます。

「絶対に迷惑はかけないから」と頼まれて、保証人を引き受けてしまったばかりに、他人の借金を返さなくてはならなくなるケースは決して少なくありません。

保証人制度は、保証人と本来の債務者との間の契約ではなく、保証人と貸し手側との契約なのです。

自分や相手を守るためにも、保証人制度についてきちんとした知識を付けておかなければなりません。

ここでは保証人制度について、基本的な知識を解説していきます。

 

単純保証人は返済の請求をかわすことができる

保証人には、単純保証人と連帯保証人の2種類があります。

金融機関からは、連帯保証人を要求されるのが一般的です。

なぜなら、単純保証人よりも連帯保証人のほうが、借金返済の請求が容易なのです。

 

借金の返済が滞ると、金融機関はまず本来の債務者に請求をします。

もし債務者より先に保証人が返済を請求されたら、「本人に請求してください」という権利が単純保証人にはあります。

しかし、連帯保証人にはこの権利が認められていません。

また単純保証人には、本来の借り手が資産を持っている場合、「借金をした本人の財産から差し押さえてほしい」などと要求をする権利があります。

 

連帯保証人になるということは自分が借金したのと同じこと

連帯保証人には、本人に先に請求させる権利と財産を差し押さえさせる権利がありません。

つまり、借金をした本人に財産があっても、自分の財産を先に差し押さえられてしまう可能性があるのです。

そのうえ保証人が複数いたとしても、連帯保証人一人一人が債権の全額を支払う義務を負っています。

 

債権者から請求を受ければ、連帯保証人は拒否することはできません。連帯保証人一人に請求が来た場合は、一人で全額を返済したあとで、ほかの連帯保証人に対して各自の分担額を請求することになります。

金融機関は、借金の当事者の支払い能力の有無にかかわらず、最も回収しやすい連帯保証人に対して、借金の全額返済を請求することができます。

連帯保証人は、保証人自身がお金を借りたことと同じ責任を負わされる怖い制度なのです。

 

金融機関の融資は保証人が必要

連帯保証人は、依頼するにも相当な覚悟が必要です。

ある調査では、自己破産の原因の4分の1は他人の借金の肩代わりというデータもあります。

そのため金融庁から、経営に関係のない親族や友人などの第三者を、連帯保証人にすることは原則禁止とする指針が出されました。

 

しかし、小さな会社や個人事業者は経営基盤が弱く、保証人を見つけることが困難です。

結果的に、必要な融資を受けられない可能性も発生します。第三者の保証人を要求されない代わりに、有望な起業家が十分な資金調達を得られず、起業をあきらめる結果になっては意味がありません。

融資を受けにくい環境になれば、起業する人も激減します。

その結果、新しいことにチャレンジしにくい国となり、海外との競争にますます後れを取ることになってしまいます。

 

保証人が依頼できない人のための融資がある

国や地方自治体には、中小企業や起業家が利用できる様々な資金調達の制度があります。

この制度を活用すれば、第三者に保証人を依頼することが難しい人や担保を提供することが困難な人でも、資金調達ができるというわけです。

 

たとえば各地方自治体では、中小企業の資金調達を支援するために、「信用保証制度」を設けています。

これは、都道府県などの地方公共団体が保証人になってくれるという制度です。

また、日本政策金融公庫には、経営者自身の保証も不要な「無担保無保証制度」があります。

このほかに地方自治体の「制度融資」も上手に利用すれば、担保も保証人もなしで、必要な資金を調達することも可能なのです。

 

連帯保証制度は、多くの問題をはらんでいます。

しかし、実現不可能な事業計画を立てる側にも問題があるといえます。

事業が実現できなければ、返済することができないのです。

金融機関から保証人なしで資金を調達するためには、いかに自分を信用してもらうかがポイントになります。

そのために必要となるのが、地に足のついた事業計画書の作成というわけです。

 

融資の仕組みを理解して交渉を有利に進める

 

あなたの会社はこうやって格付けされる

創業融資とは初対面の相手に対して、いくつかの申請書類と12回の面談だけで、お金を貸してくれる制度です。

金融機関にとっては、かなりリスクの高いビジネスとなります。

逆にいえば、創業融資は起業家にとって、かなり有利な条件で融資を引き出すチャンスです。

この制度を最大限活かすためには、どうすれば相手が自分を信用してお金を貸してくれるのか、金融機関の判断ポイントがどこにあるのかを押さえておく必用があります。

 

では、金融機関はあなたのどこに着目して融資の可否を判断しているのでしょう?

答えはただ一つです。金融機関は「貸したお金がちゃんと返ってくる相手かどうか」という1点で、融資の可否を判断しています。

 

「金融検査マニュアル中小企業融資編」がすべてのもとになる

金融機関が、あなたの会社を評価する根拠として使用しているものが、金融庁が公表している「金融検査マニュアル中小企業融資編」というマニュアルです。

これはもともと、金融庁の検査官が金融機関を検査する際の手引き書です。

金融庁

この中には、社長と会社の一体性、会社の技術力や販売力、経営者の信用力をどのように検証すべきか、といったことが書かれています。

銀行が中小企業をどういう基準で評価しているか具体的に記載されているので、中小企業にとっても融資を受ける際の参考になるのです。

マニュアルには、金融機関は融資先を「正常先」「要注意先」「要管理先」「破たん懸念先」「実質破たん先」「破たん先」の6段階に格付けしなさいと書かれています。

 

金融機関にとって、貸出先の会社の格付けが悪いと都合が悪いことになります。

なぜなら、銀行は貸金の回収可能性が低いときは、貸倒れになった場合の貸倒損失の予想額を、銀行自身の決算書に計上しなければならないからです。

この予想額のことを、「貸倒引当金」といいます。

 

貸倒引当金は、貸金の残高に一定の掛率を掛けて計算します。掛率は銀行と格付けによって異なり、たとえば正常先なら0.2%、要注意先なら8%、要管理先は15%、破たん懸念先は75%、実質破たん先、破たん先は100%という風に決めています。

会社の財務状況が悪ければ、それだけ回収できない可能性が高いと判断されます。

すると、貸倒引当金の金額も大きくなります。銀行にとって、貸倒引当金はまだ顕在化していない負債そのものです。

 

つまり貸倒引当金の額が大きくなればなるほど、銀行の業績が悪化するというわけです。

このような理由から、貸付先の会社の財務状況が悪いと金融機関の業績が悪くなり、銀行自体の格付けも悪化してしまう可能性があるのです。

よく銀行は、「雨の日には傘を貸さない」といわれます。

 

しかし、銀行自身も金融庁や監査法人の指導を受けて、適正な貸倒引当金を計上しなければなりません。

自身の身を守るためには、仕方がない部分もあるのです。

 

起業したばかりの会社には事業計画書しかない

金融機関が格付けをする際、最も重視するのは会社の「決算書」です。

しかし、設立したばかりの会社はまだ決算書がないので、事業計画書を分析して融資できる相手か判断されます。

どの程度の売上が見込めるのか、返済予定金額以上の利益をあげられる計画になっているか、その事業計画に具体性や信ぴょう性があるかを総合的にチェックし、貸したお金が返済される可能性を検討されるのです。

 

事業の成功は、従業員はもちろん、支援者やお客さまなど、いかに多くの人を巻き込めるかにかかつています。

無担保無保証で創業資金を貸してくれる金融機関は、あなたの最初で最大の支援者となります。

その支援者に、起業にかけるあなたの熱い思いを伝えるために作成するのが事業計画書です。起業において、事業計画書はとても重要なものなのです。

それだけではありません。

 

最近では、国や地方公共団体がさまざまな補助金を出しています。

創業時に利用できる補助金もあるので、これを利用しない手はありません。

しかし補助金は助成金と違い、要件に合致しただけでは受給することができません。

補助金を受けられるかどうかを決定する最大のポイントが、事業計画書なのです。

 

終わりに

このように起業する際は、自分のビジネスを客観的に見るためにも、資金調達をするためにも、しっかりとした事業計画書が必要になります。

まずはあなたのビジネスをもう一度見つめ直し、より相手にとって魅力的にならないか考えてみてください。

きちんとした計画を立てることができれば、きっとスムーズに起業することができるでしょう。

 

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この記事を書いた人

これまで、20代前半より8店舗のお店をオープンしてきました。銀行などから融資を受けることなく無借金で10年以上経営するも、自分の将来が見えなくなってしまったため、全て従業員や知人に売却。

その後、店舗の開業、店舗展開に携わり、これまでオープンしてきた店舗は100を超えます。

また、集客の専門家でもあるため、全国各地より『集客支援』の依頼が絶えず来ており、これまでサポートした個人事業主・企業様は500件以上となっています。

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