会社の経営が軌道に乗り始めると、経営者には事業以外の悩みが生まれます。それが税金です。
伸びる企業の経営者にとって、税金は避けては通れない大きな問題なのです。
会社に少しでも多くの利益を残すためには、節税対策が必須となります。
細かい税金の計算は税理士などに任せた方がよいですが、経営者自身もある程度把握しておく必要があります。
そこで今回は、人を雇うことで節税が出来る制度について紹介していきたいと思います。
ヒトを増やしたときに使える雇用促進税制
雇用促進税制とは、雇用者の数を増やしたとき、一定の要件を満たせば税額控除が受けられる制度です。
適用年度中に雇用者の数を5人以上(中小企業は2人以上)かつ10%以上増加させるなど、一定の要件を満たした場合に、雇用増加数1人当たり40万円の税額控除が受けられます。
ここからは、雇用促進税制について解説してきます。
適用対象となる事業主
雇用促進税制を活用するには、青色申告書を提出する事業主でなくてはなりません。
なお、増加させる雇用者数が2名以上となる中小企業は以下のいずれかを満たす必要があります。
・資本金または出資金が1億円以下の法人
・資本もしくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下
適用対象年度
この制度は適用年度中に開始する各事業年度において適用できます。
ただし、適用対象年度であっても以下の事業年度については、雇用促進税制は適用できませんので注意して下さい。
・設立の日を含む事業年度(合併による設立を除く)
・解散の日を含む事業年度(合併による解散を除く)
・清算中の各事業年度
適用要件
この制度の適用を受けるためには、以下の要件を全て満たしている必要があります。
・適用年度とその前事業年度に、事業主都合による離職者がいないこと
・適用年度に雇用者の数を5人以上(中小企業の場合は2人以上)、かつ10%以上増加させていること
・雇用保険法に規定する適用事業を行っていること
・風俗営業等を営む事業主ではないこと
・雇用増加割合が10%以上であること
雇用増加割合とは、適用年度の雇用者増加数を前事業年度末日の雇用者総数で割った数です。
なお、適用年度開始の日の前日における雇用者数が0人である場合、この要件は不要です。
・適用年度における給与等の支給額が、比較給与等支給額以上であること
給与等の支給額とは、雇用者に対する給与の事を指します。法人の役員と役員の特殊関係者(役員の親族など)に支払う給与や退職金は除きます。
また、比較給与等支給額は、次の式により計算します。
前事業年度の給与等の支給額+(前事業年度の給与等の支給額×基準雇用者割合×30%)
また、適用年度開始の日の前日における雇用者数が0人である場合は、比較給与等支給額は次の式により計算します。
前事業年度の給与等の支給額+(前事業年度の給与等の支給額×30%)
税額控除限度額
税額控除限度額は、雇用者増加数に40万円を乗じた金額です。
ただし税額控除限度額が、その事業年度の法人税額の10%(中小企業は20%)相当額を超える場合は、その相当額が限度となります。
手続の流れ
雇用促進税制の適用を受けるためには、ハローワークに雇用促進計画の提出を行い、都道府県労働局かハローワークで適用要件について確認を受ける必要があります。
その際交付される、雇用促進計画の達成状況を確認した事を記載した書類の写しを、確定申告書に添付しなくてはなりません。
雇用促進計画の提出から確定申告までの流れは次の通りです。
①雇用促進計画の作成・提出
適用年度開始後2か月以内に、本社・本店を管轄するハローワークへ雇用促進計画を提出します。
提出書類は、次の3つの書類です。
・雇用促進計画‐1
・雇用促進計画‐2
・主たる事業所の雇用保険適用事業所番号が分かる書類
②雇用促進計画の達成状況確認
適用年度終了後2か月以内(個人事業主は3月15日まで)に、本社・本店を管轄するハローワークに雇用促進計画の達成状況の確認を求めます。
提出書類は、次の4つの書類です。
・雇用促進計画‐1
計画開始時に押印された「雇用促進計画‐1」に、雇用者増加数などの達成状況を追記したものです。
・返信用封筒
返送先を記入し、簡易書留の所要額の切手を貼り、「雇用促進計画在中」と明記しておきます。
・雇用促進計画‐3
計画期間中に分割・合併など、企業組織再編を行った場合のみ提出が必要です。
・任意の様式による報告
一般被保険者の中に役員および役員の特殊関係者が含まれる場合のみ提出が必要です。
③税務署への申告
達成状況の確認を受けた「雇用促進計画‐1」の写しを確定申告書等に添付して、税務署に申告します。
「雇用促進計画‐1」を記入する際の注意点
雇用者増加数は、適用年度末日と前事業年度末日の雇用者数の差となります。
例えば、平成29年4月1日〜平成30年3月31日が事業年度の事業主の場合、前事業年度末日である平成29年3月31日時点の雇用者が3人で、適用年度末日である平成30年3月31日時点の雇用者が7人の場合、雇用者増加数は4人となります。
所得拡大促進税制との関係
所得拡大促進税制とは、給与等の支給額を増加させた場合、支給増加額につき10%(中小企業等は20%)の税額控除を認める制度です。
個人の所得水準を底上げする目的で、制定されています。
所得拡大促進税制と雇用促進税制は選択適用となっており、どちらか一方しか適用できません。どちらを選択するかについては、自社の状況に応じて慎重に判断する必要があります。
もし判断が付かない場合は、まずは雇用促進計画を提出しておき、確定申告の際にどちらを選択するか判断するという手もあります。
以上、雇用促進税制について解説いたしました。従業員を雇用する予定のある社長さんは、ぜひ活用してみて下さい。
ヒトは増えていないが人件費が増えたとき使える所得拡大促進税制
ヒトは増えていないが人件費が増えたということは、支給する給与を増加させたということです。
このような場合に、税額控除が受けられるのが「所得拡大促進税制」という制度です。給与の支給増加額について、一定の要件を満たすことで利用できます。
その要件とは、適用期間内に始まる各事業年度において、国内雇用者に対して給与等を支給し、基準年度と比較して2%~5%以上給与等支給額を増加させるというものです。
この要件を満たすと、雇用者給与等支給増加額の10%の税額控除が認められます。
ここからは、所得拡大促進税制について詳しく解説していきます。
適用対象となる事業主
所得拡大促進税制が適用されるのは、青色申告書を提出する事業主となります。
国内雇用者の範囲
要件を解説する前に、給与の支給対象となる「国内雇用者」の範囲を確認したいと思います。
国内雇用者とは、法人や個人事業主の使用人のうち、国内の事業所に勤務する雇用者を指します。
雇用保険一般被保険者でない方も含みますので、雇用保険に加入していないパートや日雇労働者、アルバイトも含まれることになります。
ただし、役員の特殊関係者や使用人兼務役員(使用人兼務役員の特殊関係者を含む)は使用人から除きます。な
お、役員の特殊関係者は、以下の4つが該当します。
・役員の親族
・役員と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
・役員から生計の支援を受けている者
・上記の者と生計を一にするこれらの者の親族
適用要件
この制度の適用を受けるためには、以下の3つの要件を全て満たさなくてはなりません。
要件①:雇用者給与等支給増加額の基準雇用者給与等支給額に対する割合が5%以上であること
要件②:雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額以上であること
要件③:平均給与等支給額が比較平均給与等支給額以上であること
なお、「雇用者給与等支給額」とは、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される、国内雇用者に対する給与等の支給額を指します。
退職手当など、給与所得とされないものはこれに含まれません。
また、役員の特殊関係者や使用人兼務役員に対して支給する給与・退職手当は除きます。
ではここからは、それぞれの要件について詳しくみていきましょう。
要件①について
基準雇用者給与等支給額とは、基準事業年度における雇用者給与等支給額をいいます。
そして、雇用者給与等支給増加額とは、適用事業年度の雇用者給与等支給額から基準事業年度の雇用者給与等支給額を引いた金額です。
適用事業年度の給与等支給額が前事業年度の給与等支給額と比較して1〜2年目については2%、3年目については3%、4年目については4%、5年目については5%増加している必要があります。
中小企業の場合は、4、5年についても3%の増加で要件を満たします。
要件②について
比較雇用者給与等支給額とは、適用事業年度の前事業年度の雇用者給与等支給額をいいます。前事業年度の月数と適用事業年度の月数が異なる場合、まず前適用事業年度の雇用者給与等支給額に適用事業年度の月数を掛けます。これを前事業年度の月数で割った金額を比較雇用者給与等支給額とします。
つまり、適用事業年度給与等支給額が前事業年度の給与等支給額を下回らないことが必要です。
要件③について
平均給与等支給額とは、継続雇用者に支払われる雇用者給与等支給額を、適用事業年度における給与の月別支給対象者を合計した数で割った金額をいいます。
また比較平均給与等支給額とは、比較雇用者給与等支給額を、前事業年度における給与の月別支給対象者を合計した数で割った金額をいいます。
ただし、新たに事業を開始した場合には、月別支給対象者数は1とします。
つまり、適用事業年度の平均給与等支給額が、前事業年度の平均給与額等を下回らないことが必要となります。
税額控除限度額
3つの要件をすべて満たした場合、適用事業年度の雇用者給与等支給額から基準事業年度の雇用者給与等支給額を除いた額の10%を税額控除できるようになります。
ただし、減税額が本来納めるはずの法人税額の10%(中小企業の場合は20%)を超えていた場合、法人税額の10%(中小企業の場合は20%)が減税額となります。
手続の流れ
所得拡大促進税制を利用するために、事前の手続や届出は必要ありません。
法人税(個人事業主の場合は所得税)の申告の際、確定申告書に税額控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額、その金額の計算に関する明細書を添付することで適用されます。
雇用促進税制との関係
所得拡大促進税制は、雇用促進税制や雇用を増やした時に受けられる減税措置とは選択適用となります。
つまり、これらの制度の中から、最も有利なものを見極めなくてはならないのです。
雇用促進税制の場合、適用年度とその前事業年度に、事業主都合による離職者がいると利用することができません。
それに比べ所得促進拡大税制は、3つの要件さえ満たせば、事業主都合による離職者がいる年度でも利用することができます。
また、雇用促進税制の場合事前の届出が必要ですが、所得拡大促進税制には特別な事前手続はありません。
雇用促進税制の事前届出を行った場合でも、確定申告の際に所得拡大促進税制を選択することができます。
どちらの制度を利用するか判断できない場合は、とりあえず雇用促進税制の事前届出をしておくと良いでしょう。
今回紹介した制度を利用すれば、経営者の悩みの種である税金を安く抑えることが出来ます。
雇用促進税制を使うには、人を雇い入れる必要がありますが会社の戦力がアップします。所得拡大促進税制を利用するには、従業員の給与をアップする必要がありますが、従業員の満足度は上がるでしょう。
どちらも会社にとってプラスとなるので、ぜひ活用してみて下さい。