美容室のイメージをはじめに決めるのは店舗デザインです。
そのため、サロンコンセプトに合った物件選びと店舗デザインは、人気店になるために必要不可欠です。
しかし一度店舗をつくってしまうと、例えイメージと違っていてもやり直すことはできません。
そのため、入念に準備を重ねた上で、店舗づくりに取り組む必要があります。
そこでこのページでは、店舗をつくる前にやっておかなければならない準備や、失敗を防ぐためのポイントについて紹介していきたいと思います。
開業したから後悔しないためにも、ぜひ参考にしてみてください。
物件契約時トラブルにならないためのポイント
物件選びにはいくつかの段取りがあり、トラブルを防ぐために知っておくべきことがたくさんあります。
実は開業準備の際に、大きなロスを生む可能性が高いのが物件契約までのステップです。
そこでここでは、契約までの流れとトラブルを未然に防ぐためのポイントを紹介したいと思います。
物件契約における基本
賃貸借契約書には、専門知識がないとわからない項目がたくさんあります。
分からないからといって適当に契約してしまっては、トラブルの元になってしまいます。
条件に合った契約になっているか判断できる程度の知識を、最低限持って契約に臨んでください。
まず、物件契約の種類には、「普通借家」と「定期借家」の2タイプがあります。
普通借家の場合、正当な理由のない限り契約を更新することができます。
一方、定期借家の場合は、基本的に更新できないことを前提にした契約となっています。
契約期間の満了で賃貸借が終了してしまいます。
次に、不動産業者には「客付け」と「元付け」の2種類があります。
客付けとは、物件を探している開業者から依頼され、条件に合う物件を探して紹介する不動産業者です。
一方、元付けとは、物件オーナーから物件の管理や入居者募集を委託されている不動産業者です。
以上の基礎知識を、まずは押さえておいて下さい。
契約書で最低限押さえるべきポイント
次に契約書のチェックポイントを見ていきましょう。
契約書の用語を見るときに、誰に支払うお金なのかという視点で確認してみてください。
この視点を持てば、業者の仕組みもわかってきます。
①店舗保証金
店舗保証金とは、入居時に物件オーナーに預けるお金のことです。
主に、借主が家賃を滞納した場合の担保金、退去時に部屋の損傷等を復旧する目的で使われます。
基本的には退去後に返金されるものです。
②仲介手数料
仲介手数料とは、物件を紹介してくれた不動産業者に仲介料として支払う費用です。
その金額は、法律で上限が決められています。
不動産業者が受取れる仲介料は、賃料の1ヵ月分が上限となります。
通常は貸主と折半するので、月額賃料の0.5か月分の範囲内の仲介手数料が発生します。
ただし、貸主が仲介手数料を負担しない場合は、月額賃料の1ヶ月分の費用が必要になる場合もあります。
③礼金
礼金は、もともと物件を貸してもらう謝礼として支払われていました。
しかし、現在の実体は謝礼の意味ではなくなってきています。
貸主が礼金を受け取る場合、賃料の前払い、退去後の空室期間への補償、自然損耗に関する原状回復費用等にあてられています。
また、貸主が入居者募集のためのへ広告料として支払う場合もあります。
こうなってくると、礼金を支払う必要があるものなのかと疑問が出てくるかと思います。
そのため礼金は、トラブルを起こしやすいお金となっています。
④保証料
保証料は、借主に連帯保証人がいない場合などに家賃保証会社へ支払うお金です。
家賃保証会社は、連帯保証の代行を行なっている会社です。
家賃滞納があった場合、一定の範囲で家賃の立て替えを行います。
⑤修繕費用
一般的には、自然消耗で必要になった修繕は貸主が行なうことになっています。
しかし、借主の故意や過失によって発生した修繕は、借主が行なわなくてはなりません。
これらの取り決めが不明確な場合、トラブルに発展するおそれがあるので契約書を細かく確認しておきましょう。
契約書に書かれていない場合は、契約を結ぶ前に仲介をしている不動産業者に確認しましょう。
退去時に最も多いトラブルを回避する
退去時に最も多いトラブルが、原状回復にかかわることです。
原状回復とは、退去時に店舗を元の状態に戻すことをいいます。
後々のトラブルを回避するため、必ず条件を確認したうえで契約をしましょう。
本来は貸主負担とするべきものを、借主負担とする「特約」が契約書に書かれている場合もあります。
契約書の内容については、細かく確認することが重要です。
スケルトン物件と居抜き物件とは?
美容室を開業する際、初期費用の大半は物件取得費用と内装工事費用になります。
そして、スケルトン物件と居抜き物件の特徴を理解すれば、初期費用の大幅な圧縮も可能になるでしょう。
ここからは、それぞれの特徴を紹介していきましょう。
スケルトン物件と居抜き物件の違い
契約する物件の状態によって、工事費用は大きく変わります。
つまり、開業に必要な費用も大きく変わってくるのです。
そこで、まず物件にはどんなタイプがあるのか把握し、それぞれどのような工事費用がかかるのか見ていきましょう。
①スケルトン物件
スケルトン物件とは、室内が建物躯体のみとなっていて、内装設備がない状態の物件のことをいいます。
スケルトン物件の場合、室内の内装、設備といった工事は開業者が行ないます。
自分の思い通りにプランニングできる自由度はありますが、その分大きな工事費が必要になります。
②居抜き物件
居抜き物件とは、前のテナントが使用していた内装や什器備品が残っていて、それをそのまま引き継げる物件のことをいいます。
そのまま使える場合もあるので、工事費がほぼ不要というメリットがあります。
しかし、理想の物件を探すのはかなり厳しくなります。
また、一部のみ改修するという方法も使うことができます。
居抜き物件は、素人判断は失敗を招く
必ずしも居抜き物件は費用が安く、スケルトン物件は費用が高いというわけでもありません。
譲渡条件によって費用は変わりますし、物件の状態によって追加費用がかかるケースも考えられます。
物件を決める際は、必ず現地調査を行なう必要があります。
物件によっては、水道やガスの配管の関係で、希望のレイアウトができないケースもあります。
これらの判断をしてもらうためにも現地調査は業者と行い、希望の内装や設備機器の導入、レイアウトなどを詳しく伝えて、見積もりや平面図を慎重に確認することが大切です。
また、初期費用ばかりに気を取られ、ターゲット顧客から離れた物件を選んでしまっては本末転倒です。
たくさんのお客様に来店してもらって、はじめて美容室の経営は成り立ちます。
物件を選ぶ際には、最初に作った事業計画の内容に沿って、設定した条件に見合う物件を選ぶようにしましょう。
データから成功する場所を見つける方法
出店エリアで成功する場所を見つけるために、商圏分析は必須となります。
商圏分析とは、様々なデータをもとに出店エリアの特徴を読み取ることです。
検討している物件の周辺が、計画しているお店の条件に見合うかどうか、客観的に判断するために使用します。
商圏分析は、「面」「線」「点」の3つの視点から物件エリアを診断していきます。
では、それぞれの視点から見たポイントを解説していきましょう。
「面」で見る商圏分析
「面」とは商圏エリアのことを指します。
出店するエリアにターゲットとする人がいなければ、成功するはずがありません。
そのためまずは、検討しているエリアにターゲット顧客がどの程度いるのか、そのエリアはターゲット顧客が好む場所なのか調べていきましょう。
まず、商圏の範囲について考えてみます。商圏の範囲は、お客様が来店しやすい距離で考えます。
一般的に、お客様が来店しやすい距離は、、、
・徒歩圏内500m
・自転車圏内1000m
・自動車圏内3000m
といわれています。
ただし郊外や地方都市では、この範囲が広がる場合もあります。
「線」から見る商圏分析
「線」とは導線のことを指します。
導線とは、ターゲット顧客が店舗に通う道筋です。
ターゲット顧客にとって通いやすい場所のほうが、基本的には望ましいということになります。
例えば駅近の物件でも、周辺にターゲットが集まる施設がなく人通りも少なければ好条件とはいえません。
一方、駅から離れた物件でも、ターゲット顧客が多く住む場所で人通りも多ければ、その物件はかなりの好条件といえるのです。
導線分析は、ある程度地図情報から読み取ることもできますが、あくまで予測的数値になります。
より正確な分析をするには、実地調査をするようにしましょう。
「点」から見る商圏分析
「点」とは物件のことを指します。
検討中の物件の状態を、細かく調べていきましょう。
物件の築年数、階数等はもちろん、他テナントも調べます。
また、周辺にある店舗についても調べておくとよいでしょう。
あなたの理想を実現する内装業者の選び方
あなたのイメージ通りの店舗を実現できるか否かは、業者を選んだ時点でほぼ決まってしまいます。
なぜなら、実際に店舗づくりを行なうのは、店舗設計デザイン業者や工事業者だからです。
あなたが思い描く店舗を実現するためには、あなたのイメージをしっかり理解し、それを形にすることができる店舗設計デザイナーや工事業者を選ぶ必要があります。
どんなに鮮明で具体的なイメージを持っていても、業者側がそれを理解して表現できなければ理想のお店は完成しないのです。
ここで失敗すると、最初に立てた事業計画の達成すら難しくなるおそれがあります。
そこでここでは、業者を判断する方法を紹介していきます。
まずは業者それぞれの役割から理解していきましょう。
①店舗設計デザイナー
店舗設計デザイナーは、あなたが考えたコンセプトをもとにイメージを具体化してくれる人です。
また、施工業者の選定から工事中の各業者への指示・監督を行う場合もあります。
そのため、店舗設計デザイナーの選定が美容室の仕上がりを大きく左右することになります。
②工事業者
店舗設計デザイナーが作った設計図面等をもとに、施工を行ってくれる人です。
工事にも様々な工程があり、大工工事、左官工事、電気工事などそれぞれの工程に専門業者がいます。
仕上がりのクオリティは、工事業者の技術力に左右されます。
また、工事全体を管理する現場監督の力量も仕上がりに反映します。
失敗しない業者選び6つのポイント
ここからは、業者を選ぶ際のポイントを紹介していきましょう。
①美容室の実績が十分にある業者を選ぶ
美容室では、電気、ガス、水道の使用量が多く、それに対応した設計をする必要があります。
また、保健所の許可を取る基準も満たす必要があります。
美容室の経験が乏しい業者がデザイン・工事を行なうと、これらが加味されておらず開店後問題になるおそれがあります。
②過去のデザイン・施工事例をチェック
言葉の説明を聞くだけでは、業者の力量を判断することはできません。
過去の施工事例を確認し、実物から力量を判断するようにしましょう。
③コミュニケーションがしっかり取れる
コンセプトやあなたの思いを十分にヒアリングし、デザインに反映してくれる業者を選びましょう。
コミュニケーションが取れないと、あなたの理想を伝えることができません。
④見積もりについて詳しく説明してくれる
専門知識がないと、見積もりの内容も十分理解できませんよね。
そうなると、本当に必要な工事なのかどうか判断できません。
そのため、専門知識がない人でも理解できるよう、詳しく説明をしてくれる業者を選ぶ必要があります。
⑤工事の進捗を報告してくれる
工事にトラブルは付き物です。どんなに綿密に打合せを重ねても、計画通り店舗が完成するとは限りません。
工事の進捗は随時確認し、仕上がり具合をしっかり確認する必要があります。
⑥アフターフォローが充実している
美容室を常に快適な状態に保つため、定期的なメンテナンスが必要になります。
そのため、アフターフォロー体制が整っている会社を選んだほうがいいでしょう。
店舗は長く使用するものなので、業者とも長い付き合いになります。
そのため、長く営業を続けていけそうな体力と信頼のある業者を選ぶことも重要でしょう。
工事業者への発注による違いとは?
一括発注は安心で手間もかからない
一括発注とは、店舗設計デザインと工事を元請け業者に一括して依頼する方法です。
設計・デザインから工事まですべてを依頼するので、手間を省くことができます。
また、信頼のおける業者なら安心して任せられるでしょう。
一括発注の場合、一番重要になるのは元請け業者の信頼です。
すべてを一括して発注するので、デザインのクオリティが低かったり、コストコントロールができなかったり、各業者との連携がうまくいかなかったりした場合は、理想のお店を実現することはできないでしょう。
一括発注だとしても、あなた自身が種極的に確認するようにしましょう。
また、元請け業者が店舗設計やデザインを担当するケースがあります。
打合せを繰り返すうちに信頼関係が生まれ、つい全てを任せても大丈夫と思ってしまいます。
しかし、デザインと実際の工事は別物です。
自分の目で工事業者のクオリティを確認し、無駄な費用がないかチェックするようにしましょう。
すべて自分がコントロールできる分離発注
分離発注とは、店舗設計デザインと工事をそれぞれ発注する方法です。
デザインや工事の知識がある場合や、交渉力に自信がある場合は、比較的低予算で納得のいくお店が実現できます。
分離発注をする場合、あなた自身が主導で各業者とやり取りをする必要があります。
しかし、デザインや工事のプロではないでしょうから、結果的に店舗設計デザイナーに頼ることになります。
デザインはもちろん、各工事業者の選定基準や価格の妥当性などは、素人が判断することはできません。
分離発注を選択する場合は、業者を選ぶだけの知識があるか、各業者とうまく連携を取る自信があるか自問してみてください。
現地調査で絶対に確認しなくてはならない箇所
美容室は、水道、電気、ガスの使用量が多い業種になります。
そのため一般のテナントでは、必要な設備容量を満たしていないことも少なくありません。
そのまま店舗を作ってしまうと、美容室の運営に大きな支障をきたしてしまいます。
そこでここからは、それぞれのチェックポイントを紹介していきましょう。
①給排水
まずは給水の確認をする必要があります。
引込水道管口径の大きさは、主にシャンプー台の水量に影響を与えるため、必要な水量を確保できるか必ず確認しましょう。
水量効率を決める引込水道管口径は、20mm以上あると安心できます。
ただし、引込水道管口径は素人ではうまく確認できないケースもあります。
また、シャンプー台の数や物件テナントの階数によっても、給水圧力が不足するケースもあります。
そのため、できる限り専門業者に確認してもらったほうがいいでしょう。
次に排水も確認しなくてはなりません。水トラブルの原因の多くは排水トラブルです。
排水管口径の大きさの目安は75mm以上あれば安心できますが、シャンプー台の数によって必要な大きさは変わりますので、専門業者に確認してもらったほうが無難でしょう。
管を拡張する必要がある場合、多額の追加工事費用が発生することも少なくありません。
物件契約後や工事開始後、このような事実が発覚すると資金計画に大きな影響を与えてしまいます。
下手をすると開業そのものができなくなることもありますので、必ず事前にチェックするようにしましょう。
②電気
美容室で必要な電気容量は、使用するドライヤーやその他の機器を考慮して算出すればいいでしょう。
ドライヤー1台あたりに必要な電力は15Aです。
つまり、セット面4面でドライヤー4台を使用する場合は、60A以上が必要ということになります。
また、美容室では遠赤外線の促進器やスチーマー、デジタルパーマの機器等でも電気を使用します。
あなたの美容室で利用する機器を考慮して、全て含めた電気容量を考えるようにしましょう。
ドライヤーや機器が十分に使用できない環境で開業すると、施術効率が落ち顧客満足度も下がってしまいます。
物件契約前に必ず専門業者に確認してもらうようにしましょう。
③ガス
ガスには都市ガスとプロパンガスの2種類があるので、まずは検討している物件がどちらを利用しているか調べる必要があります。
都市ガスは地中に設置されたパイプラインを通して供給され、プロパンはボンベを設置してそこからガスを引き込みます。
詳しく調べると、都市ガスの容量が足りない、プロパンのボンベを置くスペースがない、などというケースも起こり得ます。
こちらも合わせて、専門業者に必ず確認してもらいましょう。
その他機器の設置スペースにも注意
給排水、電気、ガス以外にも、現地調査で確認すべきことはたくさんあります。
例えば、ボイラーやエアコンの設置場所の確認もしておかなければなりません。
特に循環式ボイラーを使用する場合は、機器そのもののサイズが大きいので、設置する場所はあるか事前に確認する必要があります。
現地調査は、必ず美容室の施工実績のある業者に依頼しましょう。
計画しているサービスを伝え、それが提供できるだけの設備が整えられるか確認しましょう。
店舗作りで失敗しないために
このように店舗をつくる上で、確認すべきこと、準備すべきことはたくさんあります。
理想やイメージだけで進めてしまうと、後々後悔することになりかねないのです。
店舗づくりには大金がかかります。
そのお金を無駄にしないためにも、ぜひ時間をかけてじっくりと準備を進めてください。