事業計画は、美容室の開業準備をしていくうえで非常に重要なものになります。
なぜなら事業計画は、あなたの美容室が成長するための設計図ともいえるからです。
さらに、融資の可否は事業計画書で判断されます。
そこでこのページでは、融資、店舗コンセプト・デザインの策定、集客戦略など、様々なシーンで使える内容の事業計画をつくり、その計画を実現するための方法を紹介したいと思います。
ぜひあなたならではの事業計画を作成し、トラブルなく繁盛していく美容室に成長させていきましょう。
最初に取り組む単月の目標設定法
美容室に限らず、お店を作るときはほとんどの人が融資を受けることになります。
そして、融資の審査で担当者が重要視するのが収支計画です。
経営者の視点で見ても、収支計画がない限り資金計画や売上計画、返済計画などを立てることができません。
そのため、融資を受けない場合でも必ず作成する必要があります。
まずは市場調査や先輩経営者からのヒアリングなどで情報収集を行ない、現実的な収支プランを作成しましょう。
最初に、1ヶ月の目標収支シミュレーションを作っていきます。
まずは、開業して1か月にどれくらいの儲けを出したいのか目標を設定しましょう。
開業時にはまだ実績がないので、ここで作成するシミュレーションはあくまで予測の数値です。
これまで働いてきた美容室での実績や、集めた情報を参考にシミュレーションを作成しましょう。
予測とは言えこの数値を目標に、今後は美容室運営を行なうことになります。
できる限り数字の裏付けとなる資料を準備して、実現可能なものを作成するよう心がけてください。
お店を守る1年間の目標収支設定法
どれだけ綿密に計画を立てても、オープン初月から目標数値を達成することは、新規店ではなかなか難しいという実情があります。
とは言え、早い段階で経営を軌道に乗せなければ、運転資金が底をつきお店を潰してしまう結果になりかねません。
そこで、最初に設定した単月の目標収支シミュレーションの数字が、どれくらいの期間で達成できれば経営が軌道に乗るか考える必要があります。
運転準備金額から期間を設定する
利益があまり出ない期間は、運転準備金を使って経営していかなくてはなりません。
このような状態がいつまでも続くと、運転準備金は底をつきお店を存続させることができません。
そこで、運転準備金の半分程度は残っている間に単月目標数値を達成できるよう、シミュレーションは作成しましょう。
ちなみに、一般的な運転準備金の目安は月間経費の3か月分程度となります。
スタッフ毎の売上予想から期間を設定する
指名客をたくさん持っているスタッフがいる場合、売上予測が立てやすくなります。
スタッフ毎に指名客数を把握し、それをもとに軌道に乗るまでの期間が計算できるのです。
まだ指名客がいない場合は、販促の効果を予測し予想集客数から期間を設定するようにします。
ただし、指名客を持っていたとしても、開業で店舗の場所が移転したり、メニュー内容等が変わったりすると、お客様が離れてしまう可能性は十分考えられます。
長期的スパンの計画に必要な観点
美容室を末永く経営していくためには、ある程度長いスパンで見た収支チェックも必要になります。
そこで、単月と1か年の目標収支をもとに、次は年次の収支シミュレーションを作成していきましょう。
開業費用の返済期間にもよりますが、最低3年分は作成しておいた方がいいでしょう。
年次収支シミュレーションの設定は、基本的に単月および1か年のシミュレーションの積み重ねで問題ありません。
しかし、長期的スパンで見るときは、以下の2つの観点も盛り込んで設定するようにします。
①美容室とスタッフの夢やビジョン
オーナーやスタッフの夢やビジョンを実現するためにはどうすればいいか、という観点が長期スパンで見たときには必要です。
事前にスタッフの夢やビジョンをヒアリングし、実現できるシミュレーションを考えてみましょう。
②初期投資費用の返済期間
開業費用は、どのくらいの期間で返済するべきなのか考えます。
そして、設定した期間で返済するための収支シミュレーションを作成しましょう。
融資が決まっている場合は、その返済期間をもとに算出しても大丈夫です。
また、開業当初では先々の売上が安定しないため、返済期間を長めに設定するケースが多いです。
確実に売上目標を達成するために算出する数字
それぞれいくら必要かハッキリさせる
事業計画書で設定した売上目標を達成するためには、戦略を立てて経営することが必要です。
そして、戦略を立てる上では、指標となる数字の構成をわかりやすくしなくてはなりません。
例えば、100万円を売上目標としただけなら、その数値を達成するためにどんな施策を打てばよいか考えがつきません。
100万円という売上を達成するためには、その内容をどのように構成するか明らかにする必要があります。
細かな目標数字の設定方法
美容室の売上を構成するものは、客数と客単価の2つに分けられます。
これをさらに分解すると、客数は「新規客数」と「リピート客数」、客単価は「技術単価」と「店販単価」に分けられます。
まずは、技術単価と店販単価のそれぞれの目標金額を入れ、その合計額を客単価に記入します。
次に、「売上÷客単価」で割り出した数字を客数とし、それを新規客数とリピート客数に振り分けると、それぞれの目標数値がハッキリとします。
なお、新規開業の場合は前職から引き継いだ客数をリピート客数とします。
それぞれの目標数字がハッキリすれば、目標を達成するためにどれくらいの金額のメニューや商品を売り上げればよいのか、何人のお客様に来店してもらえばよいのかが明確になります。
これが分かれば、具体的な集客の施策を考えることができます。
また、必要な客単価をいただくためには、どのような施策が必要なのかも考えることができます。
これらを考える作業が、売上目標を達成するための戦略作りです。
新規客を思うように集める5大要素
新規集客には、5つの要素があります。
この5つの要素ごとに目標人数を割り振り、実際の施策を検討していくといいでしょう。
ここでは、5大要素には具体的にどのような施策があるのか、各要素のポイントを紹介していきましょう。
5大要素1:紹介客を増やす
紹介客とは、知人・友人や家族からの紹介によって来店するお客様のことを指します。
①2つの種類の紹介
紹介には、意識した紹介と無意識な紹介の2種類があります。
意識した紹介とは、美容室側がお客様に対し、紹介してもらえるよう依頼をします。
また、お客様が意識をしてサロンを紹介することを指します。
無意識な紹介とは、お客様が無意識のうちに美容室のことを話し、その話に興味を持った人が来店することを指します。
②紹介客を増やすテクニック
紹介客を増やすには、話題性演出と同行来店の仕組みを作る必要があります。
話題性演出は、お客様が友人などに思わず話してしまいたくなる美容室での話題を提供します。
その話題を聞いた知人などが、その美容室に行ってみたいと思うような話題ならベストでしょう。
例えば、誕生月に来店したお客様に対してサプライズでお祝いをしてあげると、誰か友人に話したくなるでしょう。
同行来店は、既存のお客様に友人を連れてきてもらうことです。
新規のお客様は、はじめて行く美容室に対し、技術や雰囲気など様々な不安を持っています。
同行来店は、この不安を払拭することができるのです。
5大要素2:クチコミ客を増やす
美容室を利用したお客様が、何かの媒体を使用して美容室のクチコミをすると、それを見た人が美容室に興味を持ち来店することがあります。
クチコミをしたお客様と来店したお客様は無関係です。
①ネット媒体を活用する
一般的にクチコミは、不特定多数の間で広がっていきます。
クチコミの拡散方法としては、ブログやフェイスブック、ツイッター等のSNSやクチコミサイトを使用します。
②積極的にお願いする
来店したお客様にクチコミを広めてもらう一番の方法は、クチコミをお願いすることです。
クチコミの情報を閲覧する人は多いですが、クチコミ情報を投稿するお客様は少ないのです。
例えば、クチコミサイトなどにコメントを投稿してくれたお客様に、割引サービスを実施してみてもよいでしょう。
③話題性の演出
クチコミ客に対しても、話題性を提供する必要があります。
何か投稿したくなるようなネタがなければ、お客様はわざわざSNS等にコメントを投稿したりしないのです。
5大要素3:販促ツールによる新規集客
販促ツールによる新規集客とは、チラシやネット広告を使って美容室を宣伝することです。
広告を見てもらい、興味を持ったお客様に来店してもらいます。
販促ツールには主に2つの役割があり、開業時には両方揃えておく方がいいでしょう。
①案内ツール
案内ツールは、お客様に美容室の存在を認知してもらうものです。美容室に興味や関心を持ってもらうには、まず認知してもらわなくては始まりません。
②説明ツール
興味を持ったお客様には、お店のことを詳しく知ってもらう必要があります。
また、美容室に対して信頼感や期待感を持ってもらう必要もあります。
説明ツールは、これらを実現するためのものです。
5大要素4:営業活動による新規集客
店舗を構える美容室でも、営業活動を行うことができます。
その方法は、以下のようなものがあります。
①直接営業と間接営業
直接営業は、企業に対し福利厚生の一環として、美容師を利用してもらうことを持ちかけます。
例えば、50%オフの価格で美容室を利用してもらい、割引額の半分の25%を会社に負担してもらうなどが提案できます
間接営業は、ターゲットとなるお客様が通いそうな、近所のクリーニング店や飲食店にショップカードやチラシを置かせてもらう方法が考えられます。
②エバンジェリストを育成する
エバンジェリストとは、お店の良さを広く説明してくれる人のことです。
美容室のトップレベルのお得意様を、エバンジェリストとして起用し、美容室のPRを第三者の立場から行なってもらいます。
例えば近くの飲食店のオーナーに、割引価格で施術する代わりに、飲食店のお客様に美容室を紹介してもらえるように依頼します。
その際、美容室のお客様にも飲食店を紹介することを条件に交渉するといいでしょう。
5大要素5:通りがかりの人を獲得する
美容室の前を通りかかったのをきっかけに、来店してくれるお客様もいます。
実際の店舗を見るほうが、ネット上の情報よりも信頼することができます。
そのため、来店率が高く新規客の獲得には重要な要素になります。
①お客様から見えるようにする
お客様は来店するか否かを判断するとき、店内の雰囲気やスタッフの様子、価格や客層などの情報を確認しています。
そのため、外から店内がよく見えるよう設計しておかなければなりません。
ガラス張り面積が約70%以上あると、店内の情報が十分に得られるとされています。
②来店前の情報提供は万全に
店内を見ただけでは得られない情報は、店外に設置した立て看板や設置したチラシ等を使用して、お客様に伝える必要があります。
店舗が建物の2階以上にある場合も、道路通行客に気づいてもらえるように、1階に立て看板を設置するようにしましょう。
以上が新規集客の基本の施策になります。これに独自の施策を加え、目標数字を達成するための実行プランを考えていきましょう。
お客様がどんどんリピートしたくなる5大要素
客数のもうひとつの要素はリピート客数です。
お客様のリピート率向上にも、把握しておきたい5大要素があります。
この5大要素それぞれについて施策を打つことで、きっと目標は達成できるでしょう。
5大要素1:失客率を下げる
美容室を安定して経営していくには、はじめて来店したお客様にもう一度来店してもらい、常連様になってもらう必要があります。
そのためには、どのような施策を行うべきか考えてみましょう。
①不満足要素の排除
お客様の満足度向上を考える場合、まずやらなければいけないのが不満足要素を徹底的に排除することです。
なぜなら、ひとつの不満が満足や感動を帳消しにしてしまうからです。
例えば、飲食店で食事をしたとき、料理や雰囲気に満足しても、接客が不快なものなら二度と行こうとは思わないですよね。
美容室もこれと同じなのです。
②顧客満足度の向上
不満足要素をすべて排除したら、顧客満足度を向上させることを考えます。
まず重要となるのはサービスです。サービスに満足しなければ、お客様はもう一度来店しようとは思いません。
サービスの内容には、「技術」「接客」「商品」があり、これらをバランスよく提供することで、顧客満足度を上げることができます。
美容室でメインとなるサービスは技術です。そのため顧客満足度を上げるには、お客様が満足するだけの技術力を身につけなくてはなりません。
どんなに接客がよくても、技術に不満があればリピートしてもらえません。
とは言え美容室は接客商売なので、接客力も非常に重要になります。
接客で不快な思いをさせてしまうと、当然リピートしてもらうことはできません。
また、お客様は一度来店すると数時間は滞在します。
さらに、美容室には定期的に訪れる必要があるので、お客様とは長いお付き合いをすることになります。
この観点から考えると、美容室にとってスタッフのコミュニケーション能力は重要といえるでしょう。
お付き合いは長くなりますが、毎日美容室へ通うことはあり得ません。
お客様は来店しない期間、自分でケアすることになります。ホームケアで必要なのがヘアケア商品です。
お客様に繰り返し美容室を利用してもらうために、ニーズに合った満足度の高い商品を提供する必要があります。
5大要素2:リピート率を上げる
リピート率とは、お客様が再来店する確率を示したものです。
この確率を少しでも上げる方法を考えていきましょう。
①お得でリピートを促す
再来店した際にお得な特典をお客様に提供すると、直接的メリットを伝えることができます。
ここで重要となるのが、お客様が思わず再来店してしまう仕組みを作ることです。
例えば、ポイントカードや会員カードなどが考えられます。
②予約環境の整備
お客様は、特に不満がなくてもなんとなく来店しなくなります。
そこで、お客様が再来店する際に、スムーズに予約できる仕組みを整えておかなければなりません。
また、お客様の来店周期を予測し、来店のタイミングをお知らせすれば再来店を促すことができます。
5大要素3:休眠客を呼び戻す
休眠客とは、しばらく来店されていないお客様や失客の可能性のあるお客様のことです。
このお客様を呼び戻すことができれば、お店にリピート客を増やすことができます。
まずはお客様の来店サイクルを確認し、それに応じて施策を打っていきましょう。
①休眠客を分類する方法
休眠客は、来店していない期間で分類していきます。
目安は半年間で、半年以上来店されていないお客様は、失客している可能性が高いといえます。
また、これまでの来店サイクルからも判断するようにしましょう。
②休眠客を呼び戻すには?
美容室への不満が理由で失客している場合はどうしようもありませんが、ほとんどの場合何となく来店しなくなっています。
そのため、まずはお客様へコンタクトを取り、お店の存在を思い出してもらう必要があります。
さらに、特典をつけておけば、休眠客を呼び戻すことができる可能性は高まります。
最終来店から期間が空けば空くほど呼び戻せる確率は下がるため、期間別に特典内容を変えてみるのもいいかもしれません。
5大要素4:来店サイクルを早める
来店サイクルが早まれば、お客様の利用回数を増やすことができます。
1人のお客様の利用回数によって、美容室の売上は大きく変動します。
①来店サイクルをお伝えする
お客様がスタイルを維持できるように、最適な来店頻度をお客様にお知らせます。
次回の予約を、その日に取ってしまってもよいでしょう。
②顧客満足度の向上
お客様が、次回の来店を楽しみに思えるサービスを提供します。
例えば、トレンドや季節によってメニューバリエーションを変更したり、お客様ごとに特典を変えたりする方法が考えられます。
また、次回の来店時に使えるクーポンなども喜ばれるでしょう。
5大要素5:回転率を上げる
回転率は、稼働率を見るための指標になります。
閑散期と繁忙期のバランスを取り、美容室の稼働率を高めるためにはどうすればよいのか、その要素を考えていきましょう。
①セット面毎回転率
セット面毎回転率が向上することにより、施術可能な客数を増やすことができます。
施術可能な客数が増えれば、リピートのお客様もより多く施術することができ、機会損失を減らすことができます。
そのためには、スタッフ技術レベルの向上、施術工程の効率化、スタッフの人員配置の改善といった施策を実施する必要があるでしょう。
②時間帯別客数
設定したターゲットによっては、時間帯によりお客様が増えたり減ったりする場合があります。
このバランスを取り、どの時間帯でも安定的な客数を確保することができれば、売上を安定させることができます。
例えば、時間帯ごとにターゲットを分けたり、暇な時間に特典を付けたりすれば、暇な時間をなくすことができるかもしれません。
③曜日別客数
時間帯別客数と同様に、暇な曜日と忙しい曜日が分かれる場合があります。
こちらもバランスを取り、すべての曜日で安定的な客数を獲得することができれば売上は向上します。
バランスを取るためには、曜日別にターゲットを分ける、暇な曜日に特典を付ける、暇な曜日を定休にして人件費を下げるといった対策が考えられます。
技術メニューと店頭販売のダブルで売上アップ
ここからは、客単価を上げる方法について考えていきましょう。
客単価を上げるためには、2つの要素を考えなくてはいけません。
技術メニューの利用比率と単価アップ
単価をアップさせるためには、メニューの利用比率と単価を上げていく必要があります。
まず、利用比率をアップさせるには、用意したメニューをいかに利用してもらうか考えなくてはなりません。
例えば、最新メニュー・機器の導入、POPでアピール、積極的な声かけなどが施策として考えられます。
次に、単価をアップさせるには、提供するメニューの価値を高める必要があります。
例えば、スタッフの経歴紹介や施術工程を紹介することで、お客様が感じる価値を高めることができるかもしれません。
お客様はサービスを受けた対価としてお金を支払うので、より価値を感じてもらえるような施策を考えましょう。
店頭販売を増やす
多くの美容師は、カットやカラーなど、技術を提供することが美容師の仕事と考えています。
そのため、店頭販売を積極的に行なうことに抵抗を持つ人も少なくありません。
店頭販売を増やすためには、お客様や美容室にとって店販がどのような役割を持っているのか十分に整理し、スタッフへの意識改革に取り組みましょう。
スタッフの意識改革ができたら、次はスタッフの商品知識やトークスキルを向上させる必要があります。
また、POPやホームページを利用し、お客様へ商品をアピールしていきましょう。
販売スキルを高める方法
スタッフの販売スキルをアップさせるためには、接客ストーリーを作ることが大切です。
接客ストーリーとは、サロンコンセプトや各戦略を実行するための行動計画のことです。
スタッフが迷わず実行できる、接客ストーリーを作ってあげましょう。
事業計画をしっかり立てて繁盛店を作ろう
このように、事業計画はお店づくりのこと、スタッフのこと、そして何よりお客様のことを考えてつくる必要があります。
そして、それを実現するために必要なことも事前にピックアップし、計画的にお店を経営する必要があるのです。
お店を続けるには売上が必要です。
そしてその売り上げは、お客様によってもたらされます。
多くのお客様を獲得し、安定した経営を続けるためにも、開業前から売上に対する戦略を立ててみてください。
開業前からしっかりとした計画を立てておけば、開業直後からスタートダッシュを切ることができるでしょう。