起業家にとって、融資だけが資金調達の方法ではありません。融資は借金ですので、返済する必要があります。
そこで、返済不要の資金調達法があるとしたら、利用しない手はないでしょう。
資金繰りのことを考えても、返済不要の資金調達も押さえておきたいところです。
返済不要の資金調達には、補助金と助成金が挙げられます。
特に、創業時に受けられる創業補助金は、資金不足に悩むスタートアップの会社のために存在します。
このページでは、創業補助金を受給するために必要なことを解説していきます。
補助金とは
補助金は返済不要
補助金とは、国や地方公共団体が、政策的な意図を持って支給する返済不要の資金です。
補助金を支給することを、「交付」といいます。企業だけでなく民間団体、個人、自治体なども交付を受けることができます。
国が補助金に力を入れる理由は、政府には達成したい目標があるためです。
補助金を交付すれば、その目標を達成するための事業に取り組む人が増えるというわけです。
また、特定の事業を支援することで、その事業の拡大を後押しし、国の政策目標を達成する狙いもあります。
補助金の交付を受ける事業者にとって最大のメリットは、返済の必要がないということです。
補助金200万円を受け取った場合のインパクトを考えてみましょう。
経常利益率が5%とすると、200万円の手元資金は、4,000万円分の売上に匹敵する計算になります。
このように返済の必要がないという点で、融資と補助金は決定的に違っています。
決算書に融資は、貸借対照表の「負債」として計上されます。
返さなければならないということは、会社の収益にはならないし、税金の対象にもならないということです。
では補助金は、決算書のどこに表示されるのでしょう。
補助金は貸借対達照表ではなく、損益計算書の「営業外収益」に計上します。
つまり補助金は、会社の収益として認識されるということです。
これは、見落としがちな盲点なので覚えておいて下さい。
営業外収益と言うことは、当然法人税の課税対象となります。
補助金は応募した会社から選別される
返済不要な補助金ですが、問題点もあります。
まず、補助金は年間3,000種類以上あり、自分の会社に適したものを見つけられないということです。
そのうえ補助金の募集期間は、3週間から1カ月程度しかありません。
せっかく適した補助金を見つけても、すでに応募期間がすぎているなんてことがよくあるのです。
そうならないためにも、常に広くアンテナを張り、補助金募集の情報をチェックしておきましょう。
要件に合致しても、給付を受けることができるか分からないのも補助金の難点です。
補助金には予算があるので、応募した会社が多ければその中から選別が行われます。
補助金には審査があり、合格してはじめて給付を受けることができるのです。
審査はまず、応募のあった中から書類審査が行われます。
その中から優秀と思われる企業に対して、面接が行われることもあります。
倍率は補助金の種類にもよりますが、5~10倍というものも珍しくありません。
補助金はもらうまで時間がかかる
もうひとつ、補助金には難点があります。
補助金は、補助事業に対する経費を支払った後でお金がもらえるケースがほとんどです。
また、決して全額が補てんされるわけではありません。
補助金の原資は、国の税金です。
あなたが本当に支払いをしたのか、使った領収書が補助事業の条件を満たしているのかを審査しなければ、補助金が支払われないのは当然と言えるでしょう。
このことから補助金を利用するには、対象となる経費を先払いするため、つなぎの資金を用意する必要があります。
いくら補助金がもらえるからといって、自己資金なしで起業できるほど甘くはないということを、肝に銘じておかなければなりません。
助成金は条件さえクリアすればもらえる
補助金と似たものに、助成金があります。
助成金とは、雇用を促進するために、国が人件費や開業費の一部を負担してくれる支援金制度です。
主に厚生労働省が管轄しています。
補助金と違って、助成金は条件さえ満たせば、会社の規模や業績に関係なく誰でも受けることができます。
しかし逆にいえば、ひとつでも条件を満たせないと1円ももらうことができません。これは補助金も同じです。
融資の場合、申請額の半分なら出しますなど、希望どおりにならなくても何らかの救済措置があります。
しかし助成金の場合は、条件に合致するかどうかで、満額が支給されるか却下されるかの結論しかないのです。
また、助成金は、自分から申請しなければなりません。
国や地方自治体から、こういう助成金を受けられますよなどと、声をかけてはくれないのです。
つまり、知らなければもらう権利があってももらえないということです。
それにもかかわらず、助成金も種類が大量にあります。
さらに、毎年条件が変更されたり、期限がきて廃止になったり、新しい助成金が新設されたりします。
助成金を確実にゲットするために、起業を考えている人は常に情報収集しておいた方がよいでしょう。
インターネットで「助成金・起業」と検索し、各制度を紹介する官公庁のサイトをチェックして、常に最新の情報を入手しておきましよう。
自分にあてはまりそうな助成金が見つかったら、できるだけ早く各助成金を担当する窓口に相談してみてください。
補助金を検討する
経営革新等支援機関とは
補助金の多くは、国が認定する「経営革新等支援機関」と一緒に取り組むことが条件となっています。
経営革新等支援機関とは、税理士や公認会計士・中小企業診断士・金融機関などの中から、国から中小企業の身近な相談窓口と認定された会社や個人のことです。
国から認定された機関なので、経営革新等支援機関のことを「認定支援機関」ともいいます。
専門家である認定支援機関と一緒に取り組むので、迷うことなく申請までたどり着くことができるでしょう。
補助金交付までの流れ
地域の事務局に申請してから、補助金が支払われるまでの流れを見ていきましょう。
まずは、認定支援機関と一緒に事業計画書を作り、地方自治体に提出します。提出された書類は地域の事務局が審査し、その結果の通知がされます。
このとき書類審査だけでなく、面接が行われる場合もあります。
採択とは、申請された事業計画が補助事業として認定されたということです。
申請書に記載した経費や、補助金の額が承認されたわけではないので注意が必要です。
採択の通知を受け取ったら、改めて事業計画の内容を精査し、対象となる経費を洗い出します。
そして、地域事務局に交付申請を行います。
交付申請をした段階で、交付申請書に記載した「補助金交付希望額」が、受け取れる補助金の上限となります。
これ以降、計画の変更は認められないので、具体的で現実的な事業計画の作成が必要です。
また、交付が決定した日以降に発生した「経費」しか、補助の対象にならないので注意してください。
補助金の交付が決定したら、補助事業をスタートします。
補助金の対象となる期間は、補助金によってそれぞれ決まっています。
そして、補助金にかかる事業が終了したら、完了報告書を提出します。
実際に補助金が支払われるのは、完了報告書を提出してからです。
このプロセスは補助金の種類によって異なります。
しかし、起業家が利用できそうな「創業補助金」や「ものづくり補助金」の流れはほとんど同様です。
もらえる補助金がないか検討する
補助金の種類は、3,000種類以上あります。
さらに、年や地方自治体によって異なり、廃止や新設も頻繁に行われます。
使える補助金の情報を追いかけるだけでも結構大変です。
そこで「ミラサポ」というサイトを活用しましょう。
ミラサポでは、中小企業や中小事業者が使えそうな補助金。助成金の概要が紹介されています。
特に「補助金・助成金ヘッドライン」は、こまめにチェックしておくことをおすすめします。
せっかくぴったりの補助金を見つけても、募集期間が終わっていては意味がありません。
しかし、もし募集が終了していても諦める必要はありません。
中小企業の活性化は、政府の成長戦略になくてはならないものです。
予算があるかぎり、同じ補助金が何度も募集される可能性が高いのです。
創業補助金を申請する
創業促進補助金とは
補助金の種類はたくさんありますが、スタートアップの会社が利用しやすいのが「創業促進補助金」でしょう。
創業促進補助金とは、新しい産業の創設や雇用を通じて地域を活性化しようとする人を支援するものです。
事業を承継したあと、新しい事業や新分野へ展開したいという人は、「第二創業促進補助金」が利用できるでしょう。
ただし、創業補助金は起業するすべての人が対象ではありません。
産業競争力強化法に基づく、認定市区町村で創業する人のみが対象となるので確認してみてください。
また、募集の都度、対象者や補助内容は変わるので、注意が必要です。
創業促進補助金は、最大200万円支給されます。
ただし補助額が100万円に満たない場合は対象外です。
補助金は後払いとなります。
補助事業を実施し、報告書などの必要書類を提出して検査を受けた後、はじめて受け取ることができるのです。
また、補助金の対象となる経費の全額が支払われるわけでもありません。
補助率は3分の2なので、200万円の経費を使っても約133万円の支給となります。
200万円全額の支給を受けるためには、全部で300万円の資金を用意する必要があります。
地域ぐるみのサポートが充実
最近では、日本の開業率を欧米並の10%超にしようという動きもあります。
そのため、地方自治体と商工会や商工会議所、金融機関などが連携して、地域ぐるみで創業サポートを行う体制が充実しています。
創業補助金や創業融資を受ける際、大いに活用できるでしょう。
具体的には、各地方自治体にワンストップで誰でも気軽に相談できる窓口が開設されています。
そこでは、創業でのファーストステップから、一緒に考えてくれます。
さらに、1カ月以上継続して全般的な創業のノウハウを学んだ創業希望者には、市区町村から証明書が発行されます。
これを「特定創業支援事業」といいます。証明書を取得した人は、株式会社の登記にかかる登録免許税が半額になる、制度融資の保証枠が1,000万円から1,500万円に拡充される、創業関連保証の特例を、事業開始の6カ月前から利用できる、という3つの特典を利用することができます。
創業促進補助金の対象
創業促進補助金の対象となる経費は、店舗や設備を借りるための費用、原材料費、マーケティングに必要な経費、広告費、人件費、旅費、弁護士・弁理士など専門家との顧問契約のための費用などが対象となります。
他には、認定支援機関による事業計画の実施に係る経営支援に対する報酬も対象となります。
申請に必要な書類
創業補助金を申請するためには、事業を実施する地域の地域事務局に必要書類を提出します。
必要となる書類は「事業計画書様式1」「事業計画書様式2」「認定支援機関支援確認書」「認定支援機関と金融機関で交わした連携に関する覚書の写し」「認定支援機関の認定通知書の写し」「事業計画書、認定支援機関支援確認書を記録したCD-R」「補足資料」の7つです。
場合によっては他に、追加書類があるので地方事務局に問い合わせてください。
提出の方法
様式2の「実施形態」の欄に、事業実施地を記載する場所があります。
申請書は、ここに記載した住所を管轄する地域事務局に提出して下さい。
会社の本店所在地ではないので注意が必要です。
事務局の窓口へ直接持ち込んだり、FAXで送ったりすることはできません。
郵便や宅配便での提出となります。封筒の表面には、「創業補助金応募書類在中」と書いておきましょう。
また、電子によるエントリーも可能です。
電子エントリーは、中小企業庁が運営する支援ポータルサイト「ミラサポ」や、パソナが運営する創業・第二創業促進補助金事務局のサイトから申請できます。
申請書の書き方
「申請書様式1」を書くときのポイント
様式1には、あなたが行いたい事業のエッセンスをまとめていきます。
これから申請する、事業計画の顔といってもよいでしょう。
何万枚もの応募資料の中から、あなたの事業計画に興味を持ってもらうための重要な書類となります。
なお、様式2を完成させてからの方が、様式1は書きやすいかと思います。
様式1では、以下の3つのポイントを押さえて書いていきましょう。
①事業テーマ名
テーマ名を見ただけで事業の内容がわかるように、30字程度で記載します。
申請が採択されると、ここに記載したテーマが中小企業庁などのホームページで公表されます。
「○○製造業」とか「○○販売」など、業種名だけの大ざっぱな名称ではいけません。
②事業計画の骨子
事業テーマに記載した事業を実現するために、「何を」「どのように」行うのか、審査員がイメージできるように、100字程度で記載します。
上記の事業テーマとあわせて、様式2の「事業内容」を先に完成させ、その内容を要約する形で記入すると書きやすいです。
③事業完了予定日
交付決定日から、補助事業の最終日までの間の日にちを記載します。
募集される補助金によって、補助事業の期間は決まっているので確認が必要です。
経費が補助金として認められるかどうかは、実際に支払った日で判断されます。
補助事業が完了する日までに経費の支払いが完了していなければ、その経費に対応する補助金は支払われないので注意してください。
例えば、補助金の完了日が9月30日とします。
会社の給料が末締めの翌15日払いの場合、9月分の給料は10月の支払いとなるので中、9月分の給料は対象とはなりません。
「申請書様式2」を書くときのポイント
様式2には、あなたの事業計画の詳細を記載します。
融資を申し込むときと要領は同じですが、返済が不要な分だけ審査基準が厳しくなります。
しかし、審査で重要視されるのは、会社の事業計画の内容とあなたの熱意です。
創業計画書をしっかり作成し、融資をおろしたことがあるなら、そんなに難しいことではありません。
自信を持ってチャレンジしましょう。
事業の具体的な内容
創業融資を申し込む際に作成した創業計画書の内容を、さらにふくらませて記載します。
商品の特徴や強みだけでなく、ターゲットは誰か、ターゲットに対してどうやってアプローチするのかを具体的に書いていきましょう。
第三者である補助金の審査員にわかるように、図表やグラフを活用しても効果的です。
逆に、インターネットから業界の統計的なデータを引用しただけの資料は効果がありません。
創業補助金は、新しい事業を支援して地域経済を活性化することが目的です。
商品のセールスポイントや特徴、既存の商品と何が違うのかが審査のポイントになります。
特に、地域において期待される需要に対して、既存の商品や事業者では充足できていない部分は重点的にアピールします。
また、まだ需要が顕在化していないならば、どのような取り組みによって、需要の創造を行っていくのかをアピールしましょう。
補助金をもらう以上、事業の継続性も重要なチェックポイントになります。
原材料や商品の仕入計画・生産計画、価格の設定、販売計画などを具体的に記載し、あなたの事業が継続的に続く事業であることをアピールします。
さらに、そのための体制をどのように構築していく予定かもあわせて記入します。
最後に、事業を行ううえで想定されるリスクや問題点を洗い出し、それらの課題に対して、どのような解決策を考えているかも触れておくとよいでしょう。
事業の動機、きっかけおよび将来の展望
この事業を通じて実現したいビジョン、周りの世界をどのように変えたいと思っているか、そのためにどんな準備をしてきたか、といったことを記載します。
また、この事業をはじめようと決心した動機やきっかけ、この事業を行うのが、あなたでなければならない理由も記載します。
事業にかける熱い思いをアピールしましょう。
事業の知識、経験、人脈、熱意
「職歴」欄には、事業を行うための基礎的な知識や経験を、どのように獲得してきたのかがわかるよう記載します。
事業の内容とつじつまが合うようにしましょう。
またこれまでどのような人と関わり、この事業を進めるうえで必要なネットワークを構築していることも記載します。
構築したネットワークから、期待できる支援協力についてもアピールするといいでしょう。
事業全体にかかる資金計画
交付決定日から事業完了予定日の間に必要と見込まれる、すべての資金とその調達方法を記載します。
まだ事業を始めていない場合は、交付決定日前の準備の期間をプラスして集計することもできます。
必要な資金には、新事業の準備から補助事業の期間が終了するまでの間に発生するすべての資金を、「設備資金」と「運転資金」に分けて記載します。
設備資金には、事業用の不動産や敷金・保証金、建物の内外装工事、機械装置、工具、器具、備品などが含まれます。
ただし、単価50万円以上の資産については、補助事業終了後も一定期間、事務局の承認を得ないと処分できない縛りがあります。
そのため、購入よりもリースやレンタルでの調達がよいかもしれません。
設備資金以外のものは運転資金になります。
例えば人件費、店舗の賃借料、リース料、商品・材料の仕入、旅費交通費、広告宣伝費、水道光熱費、消耗品費などが考えられます。
調達の方法には、必要な資金をどうやって調達する予定か記載します。
自己資金、金融機関からの借入金、親族からの借入金、売上からの充当、補助金交付希望額に分けて記載していきましょう。
「必要な資金」と「調達の方法」の合計額は、必ず一致しなくてはなりません。
補助金交付希望額相当額の手当て方法には、補助金交付希望額に相当する金額を、どのような方法で調達するのかを記載します。
実際に補助金が支払われるのは、補助事業期間が終了したあとです。
そのため、補助事業期間内に補助金交付希望額に相当する金額を、自己資金や借入などの別の方法で用意しなくてはなりません。
事業スケジュール
実施時期の期間は、個人事業の場合は1月~12月、法人の場合は会社の決算期で考えます。
したがって、個人事業なら開業した年、法人なら設立した年が1年目ということになります。
ただし、設立・開業前に行った取り組みを、1年目の取り組みに含めて記載してもかまいません。
事業スケジュールには、実際に行おうと予定している取り組みについて、できるだけ具体的に箇条書きにします。
すでに実施済みの活動も記載しましょう。
数年にわたって継続的に行うものがあれば、繰り返し記載してかまいません。
売上・利益等の計画
個人事業はカレンダー通り、法人の場合は会社の決算期にあわせて年度ごとに集計します。
個人事業の場合は開業した年、法人は設立初年度が1年目になります。設立・開業した月によって、1年目は12カ月未満となる可能性があります。
すでに1期目が終わっている場合は、1年目には実績値を記入します。
積算根拠の欄には、売上高、売上原価、販売管理費の計算根拠を具体的に記入します
。商品ごとの売上高、主な売上先、主な仕入先などの情報も加えます。
経費明細表
資金計画で計算した設備資金と運転資金の中から、補助事業期間に補助対象となる経費を洗い出して記載します。
補助対象経費として認められるためには、、、
①交付決定日よりあとの契約もしくは発注により発生した経費
②使用目的がこの事業の遂行に必要であると明確に特定できる経費
③領収書や振込控えなどによって金額や支払った事実が確認できる経費、
この3つの条件をクリアする必要があります。
交付申請で経費を洗いざらいチェックされる
事業が採択されると、次に「交付申請」という手続きが待っています。
採択の時点では、事業が補助事業として認められただけです。
まだ、経費の内容が認められたわけではありません。
交付申請では、すべての経費の計算根拠の提出が求められます。
気を引き締めて行うようにしましょう。
申請時に計算した経費明細表の金額は、さらに精査され減額されることもあります。
また、交付決定通知のあとで計画を変更し、新たに経費が発生しても、その経費は補助の対象にはなりません。
申請の時点で、具体的かつ現実味のある計画を立てることが重要となるのです。
補助金を必ず受給するために
補助金の手続きはとても面倒ですし、申請しても採択されるとはかぎりません。
しかし、補助金の申請書類が完成しないということは、事業計画がまだ甘いということです。
書類の作成は大変ですが、あなた自身の事業計画を成功に近づけるためにも、補助金にチャレンジしてみるとよいでしょう。